気まずい日々と贈り物

例えば、私が珪くんに渡すチョコは一個だけど、珪くんは美奈ちゃんと私から貰うからお返しは二個。
どう考えても、男の子の方が大変。
それに、佐伯くんは貰ってる数がかなり多い。全部返すとなると……。

「そうだね。はっきり言えば、貰えば貰うだけ損するってわけだね。」
「そうね、好きでもない人だったら、はっきり言って迷惑よね?」

さりげなくきつい事を言う密ちゃんが、うふふと笑う。
好きでもない人からプレゼント貰って、迷惑した事があるのかな?なんとなく聞けないけど。

「あ。噂をすれば、やで? そうやって考えると、プリンスも大変やなぁ〜」

黄色い声と共に現れた佐伯くんが、チョコを渡したらしい女の子ににこやかに話しかけ、足早に去っていく。ぞろぞろと女の子をつれて。
休み時間ごと優雅に走り回っていたし、きっとお昼ご飯も食べないで放課後までに全部渡し終えるつもりなんだろう。

そっか、今日は店でも同じ光景を目にするんだ。

お客さんは自分からやって来るから、少し今のとは違うんだろうけど、きっと店の中はバレンタインデーの再現になるんだろうな。

うん。大丈夫。さすがにもう予想は付くから、びっくりしないはず。

そんな事を考えながらスナック菓子を摘んで見ていると、佐伯くんが消えていった方向から、後ろを振り返りながら教室に入ってくるハリーと目が合う。

「なんだ。オマエら、こっちにいたのか。」
「なんやの、ハリー。こっちにおったら悪いん?」
「そうじゃなくてさー、しっかし、なんだ?アレ。」

親指でクイッと指すのは、今すれ違ったんだろう佐伯くんの事。
空いている席の背もたれを前にして跨いで座る。

「なんだい。自分が貰えなかったからってヤキモチかい?肝っ玉が小さいね。」
「ちげえよ。オレが言いたいのは、なんでゾロゾロ連れてるんだって事!」
「そんな事、本人に聞いておくれよ。」
「なんで、オレがそんな事聞かなきゃなんねぇんだ!そんな事よりだな!オレが来たのは理由があんの!」

珍しく竜子さんとやり合っているハリーが、結局癇癪を起こして話を変えた。
ガタンと椅子の向きを変えると、ポケットから一枚のMDを私に差し出す。

「オレ様が教えてやったのに結局バンド名が覚えられなかったって言ってただろ。しょうがないからコレやるわ。それから、バレンタインのお返しっつー事で。」
「え?いいの?」
「おう、オレ様セレクトだからな。心して聞けよ?」
「わ、ありがとう!」

背もたれを抱きかかえたハリーがニヤッと笑う。
その姿を見て、はるひちゃんが溜め息を付いた。 
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