甘いのがお好き
「ぶつかったのは僕がぼんやりしてたからです!本当にごめんなさい!」
深々と頭を下げられ、志波くんと顔を見合わせた。
それと同時に少し離れた所から、この男の子だろう名前を呼ぶ声。
同じ制服を着ているから、お友達なんだろう。
「本当に大丈夫。お友達も待ってるから、もう行った方がいいんじゃないかな?」
「……はい。分かりました。今度会った時にお詫びさせて下さい。それじゃあ、失礼します。さよなら。」
「うん。じゃあね?」
バイバイと手を振ると、何度も振り返りペコペコとお辞儀をして去っていく。
その様子を見ていた志波くんが、私も思っていた事を口にした。
「……今度会ったらって、やっぱり知り合いじゃないのか?」
「……うん。でも、初めて会ったんだよ?……もしかして、志波くんが知ってるんじゃないの?あの男の子、志波くんを見てたし。」
「……いや、知らない。」
少し考えた様子の志波くんだったけど、思い当たる事はなさそうで首を振った。
「そういえば、志波くんは何を買いに来たの?」
「……俺か?俺は、夜食の―――。なんだったらおまえも来るか?時間あるんだったら。」
夜食で話を区切った志波くんが気になり、うんと頷く。『じゃあ、行くか。』と歩き出した志波くんの後ろから、何処へ行くのだろうと着いて行った先は、はるひちゃんのバイト先であるアナスタシア。
「ここってケーキ屋さんだよ?」
「……ああ。そうだ。」
何の躊躇もなく店内に足を入れる志波くんの後に続く。
ケーキケースの前まで進むと、腕組みをして悩み始めた。
「……大崎、おまえは何にする?」
「へっ?私?どうして?」
「食ってくだろ?好きなの選べ。」
「食べるの?買って帰るんじゃないの?」
「……買って帰るけど、ここでも食ってく。」
持って帰るのに、ここでも食べるんだ!とびっくりしていると、さっさとカフェコーナーに進む志波くんに慌てて着いて行く。
やってきた店員さんに注文した志波くんが、私を見て顎で早く選べと催促。
思わずムースのショコラを選んでしまった。
「ね?本当にいいの?って言うか、夜食なんだよね?」
「……ああ、新作だから食ってから買うか決めようと思ってな。」
「食ってからって……、どっちにしても食べるんだよね?」
私がもっともな質問をすると、一瞬ピタリと止まった志波くんが、『それは言えてるな』と小さく笑う。