ハッピーバレンタイン 番外編

「ただいまっ!!」

勢いよく玄関の扉が開く音と共に、バタバタと天音がリビングに飛び込んで来る。

時間はきっかり三十分。

軽そうに見える外見とは違って、案外真面目な奴なんだな。

「おかえり、天音ちゃん。チョコ喜んでくれた?」

「え?……うん、多分。」

「多分って、食べてくれたんでしょ?」

「うん、ってどうして分かるの!?」

アタフタとした天音に、ニヤニヤとした美奈子とおばさんが詰め寄っている。
この三十分の間に何があったか問い詰めているが、二人が期待しているような事は何もないようだ。

いきなり何かあったら俺が許さないけど。

しかし、こう……。

「女ってこういう話がホント好きだよなー。なぁ、葉月?」

「……あぁ、そうだな。」

「まったく、どうしようもないんだよな。姉ちゃん!天音も帰って来たんだから、いつもの出してくれよ!」

「あ〜、そうだね。ごめん、ごめん!」

ポンと手を叩いた美奈子が天音に声をかけ冷蔵庫からケーキが入った箱を取り出す。

コートを脱いだ天音がおじさんの隣に座り、「ただいま」と言いながらグラスにビールを注ぐ。

出かける時とは違ってスッキリした顔に、佐伯が喜んだんだろうというのが分かる。

「……よかったな。」

「う、うん。ありがとう。」

「お待たせ〜!今年は凄いんだよ?」

そう言いながら美奈子が手にしているのは、かなり手の込んだケーキ。

夕方渡されたものといい、今年は二人ともかなり張り切ったんだな。

「うわー、すげー!美味そう!けど、姉ちゃんも食うのか?太るぞ?」

「今日だけだからいいの!せっかく二人で作ったんだから、ね? 天音ちゃん!」

「そうだね!明日からダイエットしたらいいよね?」

佐伯も同じものを食べてるだろうが、今年のチョコは俺達のお裾分けってとこだろう。

来年は……このままいけば、特別に作ったりするんだろうけど。

日付も変わった頃、そっと玄関を開ける。
もちろん美奈子から貰ったチョコを持って。

「今年はいっぱい食べたから、私のまで食べたら胸焼けしちゃわない?」

「大丈夫。……美奈子のは別。」

「そう?それならいいけど。でも、無理に食べなくていいからね?」

「食べる。……それより、今日はちゃんと寝ろよ?」

「うん、大丈夫。お昼寝もしたし。気をつけて帰ってね?」

「あぁ、じゃあな。……おやすみ。」

門まで見送りにきた美奈子に軽く口づけて、美奈子の家を後にする。

ちょっと気は早いけど、今年はどんなものを返そうか………。
二人が喜びそうなものを思い浮かべながら。
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