ハッピーバレンタイン 番外編
「天音ちゃん、三十分くらい遅くなるって。」
リビングにある電話を切った後、振り返りながらおばさんが、くつろいでる俺達に向かってにっこりと笑う。
「え〜〜?何でだよ。」
「どうもね?コーヒーをご馳走になるみたいなの。佐伯くん、気に入ってくれたのかしら?」
「ちぇ、それならしょうがないか。」
相変わらず筒抜けな家だ、と呆れると言うより感心する。
諦めたように椅子に深々と座りなおした尽が、俺が持ったトランプと睨み合う。
天音が帰って来るまで、おじさんの酒の相手をしながらみんなでトランプをしている。
尽が睨んでいる訳は、俺がババを持っているから。
「相変わらず葉月が読めねぇ……。」
「尽、ピ〜ンチ!」
「うっせー。絶対ババは引かねー!」
美奈子と尽のじゃれ合いを見ながらおじさんと酒を酌み交わす。
今頃浮かれた佐伯が、天音とコーヒー飲んでるのか。
持って行けといったくせに、佐伯が喜んでると思うと……。ちょっとな。
「珪くん、また眉間に皺よってる。ダメだよ?佐伯くんにヤキモチ妬いたら。」
「……そんなんじゃない。」
「え〜〜?じゃあなに?」
「それは……。」
「それはな、父親の気持ちだからだよ。」
ぐいっとビールを飲み干したおじさんが、割って入る。
うんうんと一人頷きながら父親の気持ちとやらを美奈子に説明している。
「……というわけでな、珪くんは寂しいんだよ。父さんは、なかなか珪くんが息子になってくれないから寂しいけどな!」
「もぉ、お父さん!意味分からないから!……でも、珪くん。そんな感じなの?」
「……そうかもな。」
隣から覗き込む美奈子、少し眠ったからか赤い目も治っている。
おじさんの言うとおりと言うか、妹を取られた兄の気分なんだろう。
「うわーっ!ババ引いたー!」
「や〜い。尽の下手くそ〜!」
「うるさい!次は姉ちゃんなんだからな!」
「うそっ!私?尽のバカ!」
賑やかな団らんの中、暖かい気分で酒を飲む。
いつか近い未来に、家族としてここに居られる日が来るといいと思いながら……。