ハッピーバレンタイン 瑛Side

カチンと固まっている天音の前で、言われたとおりにタルトを取り出し皿に載せる。

単純に考えても結構な数を作っているはずなのに、丁寧に作られていて心がこもっている、そんな感じ。

「うん、見た目が綺麗。ラズベリーとタルトに掛かった粉砂糖がいいな。後は、味なんだけど……。」

「う、うん。」

勿体つけてから一口。真ん中はムースか何かだと思っていたけれど、これって……。

「真ん中って、チョコクリーム?」

「うん、そう。どうかな?」

「タルト生地の苦味とラズベリーの酸味、それにこのクリームの甘み。ちょうどいいな、うん、旨いよ?」

「ほっ、ほんと!?」

ガタンと勢い良く立ち上がった天音が身を乗り出す。

そんなに身を乗り出したらさ、……ちょっと近い。

「あぁ、よく出来てる。このままウチのメニューにしてもいいくらいだ。」

「よっ、よかった〜佐伯くんは本当に上手だから、もの凄く緊張しちゃったよ〜!」

大げさなくらい安心したような顔をすると、ストンと椅子に座りなおす。

緊張って、そこまでするもんか?

まぁ、俺も普通に食べれば良かったんだけど。
嬉しいんだから、素直に食べればいいんだよな、たまには。

「ちょっと聞いていいか?」

「うん、なぁに?」

「これ、なんで俺には二つなんだ?」

「え?えっと……、あ!やっぱり迷惑だった?」

「そうじゃなくて、どうしてかなって思ったから。」

本命じゃないのはわかるけど、義理だけじゃなかったら……そんな淡い期待。
今日早く帰った理由が、他の誰かのためじゃなかったらいいのに、なんて思う。

「……どうしてだろ。こっちだけじゃ足りない気がして。変だよね、こんな曖昧な理由。」

「そっか、でもいいんじゃないか?」

曖昧でもなんでも、そう思ってくれたのなら……、他の奴らとは違うって思ってくれたのなら嬉しい。

目の前で美味そうにコーヒーを飲む天音とバレンタインを過ごしている。

―――関係はどうであれ。

それだけなのに、こういうイベントって悪くないよななんて、いつもと違う気持ちに苦笑い。

―――でももう少しだけこのままで。

時計の針を気にしながら、甘くて少しほろ苦いチョコを口に運んだ。

瑛Side continue..
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