ハッピーバレンタイン 瑛Side
本当に俺の言葉通り、女性客の対応ばかりに追われる。注文さえ取らせてはもらえない。
すべての客の注文を天音一人が取り、忙しそうにフロアをくるくる回っている。
まったく、いい加減にしてほしい。
チョコを受け取るときに一緒に注文すればいいじゃないか。
笑顔でコーヒーを運ぶ天音を目の端に捕らえながら、心の中で文句を言う。
もちろん顔は笑っているけど。
「佐伯くん、目!目が怒ってる!」
受け取ったチョコをカウンターに置きに行くと、小声の天音がトレイで口元を隠しながら注意しに来る。
今の俺の表情で分かるのって、じいちゃんとお前くらいだ。
閉店になる頃には、カウンターにはチョコの山。
「わぁ〜、すごいね!」
「すごくても、嬉しくない。」
「学校の分もあるから、全部食べるの大変だよね?」
俺はチョコ屋じゃないんだ、こんなにどうしろっていうんだ!
本当は嫌がらせじゃないんだろうか?
そんな気がしてくる。
「二人ともそろそろ片付けないと、それは後でゆっくり考えればいいから。」
「はぁ〜い。ごめんなさい。」
「俺がモップ掛けるから、天音はテーブルな?」
「うん、分かった。」
今日は一番頑張ってくれたから、一番楽な後片付けを天音に任せる。
補充なんかは明日でいいか、今日は二人とも疲れただろうから。
カウンターのチョコの整理は、天音を送っていってからでもいいしな。
こっちは、いちいち仕分ける必要もないから楽だ。
あらかた片付いたところで二人に声をかける。
「今日はこの辺でいいだろ?じいちゃんも疲れただろうし、俺着替えてくるから、天音も帰る準備してこいよ?」
「うん、分かった。」
掃除用具を片付けながら、じいちゃんの手伝いをしている天音に声をかける。
何事か話している二人にはあまり気にも留めず、自分の部屋に向かう。
帰ってきたまま放置されている紙袋が部屋の隅に転がっているが、とりあえず今は見ないフリで俺に戻るために着替えをする。
「瑛、帰るから天音さんを頼んだよ?」
「うん、お疲れ様。帰りは気をつけて―――って、それなに?」
じいちゃんが大事そうに抱えている水色のリボンの箱。見た事ないけど……。
「あぁ、天音さんからのチョコレートだよ。じゃあ、後は頼んだからね。」