ハッピーバレンタイン 瑛Side
次から次へと渡されるチョコにひとつひとつ礼を言って、渡した奴の名前とチョコの箱を記憶。
こんな事のために頭を使うのが勿体ない気がする。
見えない前に苦労しながら自分の席に近づくと、天音がびっくりした顔をしていた。
誕生日の時ほどじゃないって事は、多少予想していたって事か。
「おはよう。大崎さん。」
「おはよ、佐伯くん。相変わらずなんだけど、すごいね?」
「……まぁな。」
挨拶だけは表向きに、座る時には小声で素に戻る。
鞄の中から付箋と紙袋を取り出すと、天音が本当に不思議そうな顔をした。
「なにするの?」
「名前、書いとかないと分からなくなるから。」
付箋に名前を書きながら、返事をする。
完璧に覚えたはずなのに、やる気がないからかパッとは出てこない。
「どうして名前書くの?」
「返しする時誰か分からないとダメだろ。」
「分からなかったら?」
「まぁ、予備って言うか数は用意するんだけどな。いちいち顔まで覚えてられないから、最初にやっとくんだよ。」
本当なら顔さえ覚えればこんな事しなくてもいいんだけどな。正直覚えたくない。
「なるほどね! はぁ〜 すごいねぇ、佐伯くん。」
感心した声で暢気に天音が手を合わせる。
こいつには まったく関係ないイベントなのか?
そう言えば、他の女子と違って浮足立ったところがない。
まったく普通の14日、って感じだ。
いや、いいんだけどさ。
ソワソワなんてされたら、つーか他の奴にチョコ渡さない方がいいんだし。
――俺の事も眼中にないみたいだけどさ。
それなら、それでいいんだ。……うん。