ハッピーバレンタイン

「尽くん!ハッピーバレンタイン!」

ノックもそこそこに、勢いよくドアを開ける。もう、早く渡したくて仕方ない。

勉強机に向かっていた尽くんが、椅子ごとクルリと私を向くと眉を寄せた。

「いきなりドアを開けない!それから、それを言う前に他に言う事あるだろ?」

「あぅ、ごめんなさい。え〜と、ただいま 尽くん。」

「おかえり、天音。いきなりドアは開けるなよ?着替えてたら困るだろ?」

「あぁ!尽くん困るよね!これから気をつけるね?えと……あらためまして、ハッピーバレンタイン!いつもありがとう。」

「―――そうじゃないんだけどさー。まぁいいや、サンキュー。感想は帰ってから、今日はバイトだったよな?」

「そうなの!じゃあ、また後でね!」

慌ただしく着替えてリビングに戻ると、二人は私のチョコを仲良く食べていた。

「……どう?」

「……旨いよ? 美奈子より上手く出来てるんじゃないか?」

「ひどっ! でも、ホントに上手に出来てるよ? これなら 彼も喜んでくれるね?」

……やっぱり気付いてたんだ。
悩んだんだけど、一応用意したんだよね。
マスターにも渡したかったから、バイトの時でいいかって思ったんだけど……。

冷蔵庫の中には、おじさんとおばさんの分と、佐伯くんとマスターの分。

「でも、学校でもたくさん貰ってたし、迷惑じゃないかなぁ?」

「いいんじゃないか? 気持ち、なんだから。」

「そう、そう! 大丈夫だよ!せっかく用意したんだしね? ダメだったら私が食べてあげる!」

「美奈子。……太るぞ?」

「一つや二つで太らないも〜ん。」

う〜ん、そうだよねぇ。ダメだったら、みんなに手伝ってもらったらいいかな?

冷蔵庫から 鮮やかなブルーと水色のリボンの箱を取り出し、美奈ちゃんに渡された紙袋にそっと入れる。

「じゃあ、行ってくる。ダメだったら、二人とも一緒に食べてね?」

「もちろん!まかせて?」

「気をつけてな?」

「うん、行ってきます!」

玄関まで見送りに来てくれた二人に手を振って、ドアを閉める。

……受け取ってくれたらいいんだけど。

それより、迷惑にならないといいな。
 
天音Side continue..
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