ハッピーバレンタイン
バレンタインって冬でよかった。
夏にバレンタインがあったら、登校中に目が覚めないし、春だったら授業中に眠くなっちゃうだろうな。
それにしても―――
昨日予想したとおり、すごい光景。
人だかりと共に登校した佐伯くんの両手には、チョコの山。
「おはよう。大崎さん。」
「おはよ、佐伯くん。相変わらずなんだけど、すごいね?」
「……まぁな。」
佐伯くんは、ドサリと机に置きながら座ると、鞄からいろいろと取り出す。
「なにするの?」
「名前、書いとかないと分からなくなるから。」
付箋に名前を書きながら、ペタペタとチョコの箱に貼って紙袋に入れていく。
時折、チョコを睨み付けては思い出したように名前を書いている。
「どうして名前書くの?」
「返す時誰か分からないとダメだろ。」
「分からなかったら?」
「まぁ、予備って言うか数は用意するんだけどな。いちいち顔まで覚えてられないから、最初にやっとくんだよ。」
「なるほどね! はぁ〜 すごいねぇ、佐伯くん。」
そうなんだよね?バレンタインってお返しがあるんだよね?
それに、全部の人にお返しするんだ……。
帰る頃にはいくつになってるんだろう?
「何がすご……。」
「佐伯く〜〜ん、おはよぉ!これ、チョコなんだけどぉ〜。」
「おはよう。あ、ここのチョコって美味しいよね? ありがとう。」
また一つ増えた……。
それに何気なく名前も聞いてる。
さすがだよ、佐伯くん。
その後も、休み時間毎に増えるチョコとスマートに対応する佐伯くんに、ただ感心する。
お誕生日の時もびっくりしたけど、今回はそれ以上にびっくり。
疲れた顔は気になるけど、きっと最後まで頑張るんだろうな……。
でも、あのチョコって全部食べるのかな?