ハッピーバレンタイン
「そうかしら?天音さんにチョコもらえたら、誰でも喜ぶと思うわよ?」
「そうや!今年は誰かに渡してみ?」
はるひちゃんは、どうしても私にこの行事をやってもらいたいらしく、この間から『好きな人』の話しばかり。
いつも、竜子さんに戒められている。そして、今日も。
「西本、誰でもいいってわけでもないだろ。」
「そ〜なんやけどな?いっぺんやってみたら、どんなんか分かるかとおもたんや。まったく眼中にないんやで、意識するにはこういう時がチャンスなんや。」
竜子さんに一生懸命語るはるひちゃん。
そんな事言われたって、誰かを好きなんて思った事がないんだし急に言われても……
「そんなに気にする事ないわよ?そのうちあげたい人が現れるかもしれないんだから。」
好きでもない人に渡して、誤解されたら大変でしょう?と微笑む密ちゃん。
それに、頷きながら同意する竜子さん。
「そりゃあ、そうなんやけどな?やっぱり一緒に盛り上がりたいやん。」
渋々納得のはるひちゃんに、今夜の予定を話す。
「はるひちゃんが言うようなバレンタインじゃないんだろうけど、毎年チョコは作るんだよ?今年は、タルトとケーキの予定なんだ〜。」
「二種類も作るん?」
「うん。みんなで食べるためのケーキと、渡すための小さいチョコ。」
美奈ちゃんも食べたいって言うから、何年か前から作り始めたんだけど。
今年は、オペラと、ラズベリーのチョコタルト。
ちょっと時間的に難しいかな?って気もするけど、美奈ちゃんもタルト生地と、ガナッシュ使うから一緒にやればなんとかなると思うんだよね?
「天音さん、お菓子作るの上手だったものねぇ。」
「そうでもないよ?」
だって、間近にプロ並な人がいるもの。
私の作るお菓子はやっぱり適うわけないよねぇ。
「ええなぁ〜。あたしも男やったら、天音に拝み倒しても作ってもらうのになぁ。」
「拝まなくても、私が作ったのでよかったら作ってくるよ?」
「ホンマ?! ホンマにええの?!」
ガタンと勢いよく椅子を倒して立ち上がる。