冬のある一日

向かい合わせで置かれたコーヒーに悩む。
これじゃあ手伝いに来た意味がないんじゃないのかな?

「……だって、天音。」

「マスター、いいんですか?」

「うん、せっかく作ったんだし。それに、珪くんのお相手もしてほしいし、ね?」

「ふふっ、分かりました。そのかわり、後で張り切って働きますね?」

「じゃあ、よろしく。」

トレイをヒラヒラと振り、カウンターに戻るマスター。

後で頑張らないと。そんな事を考えながら珪くんの前に座る。

「美奈ちゃん 大変なの?」

「いや、そうでもない。美奈子が見て来いって、天音の事。」

「う〜ん。私ってそんなに危なっかしい?」

「いや? ……美奈子の方が危ない。」

「珪くん ひどっ!」

クスクスと笑いながら二人でコーヒーを飲む。
今頃 美奈ちゃんはクシャミしてるんじゃないかな?

――後でコーヒー持っていこう。

そう思いながら ツナサンドを一口。
やっぱりマスターのツナサンドは美味しい。

「………上手くなったな。」

「ん? なにが?」

「コーヒー。上手くなった。…昔より。」

「も〜!そんな事思い出さないでよ!あの頃はなんにも知らなかったんだもん」

カップに口をつけながら目だけで笑う珪くんに、今までのたくさんの失敗を思い出す。
豆を思いっきり挽きすぎて粉まみれになったり、分量を間違えて水みたいなコーヒーや、苦すぎるコーヒーとは言えない液体になったり。
そんなひどいものでも 二人は笑って飲んでくれたけど。

「本当に上手くなったな……」

「モカだけ、なんだけどね?」

「いいんじゃないか? ………それで。」

「これは 珪くんと美奈ちゃん専用だから?」

「まぁ、そういう事……だな。」

そんな事面と向かって言わなくても、二人に飲んでもらうために練習してたんだもの。

モカは二人のためだけに淹れるんだ。
この先もずっと、ね?
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