冬のある一日

途中の路地を左に曲がり、もう見慣れた道を歩く。

今日真っ直ぐ帰らないでこっちに歩いてきたのには理由がある。

「こんにちはー」

「いらっしゃい天音ちゃん。今日はよろしくね?」

「はーい! じゃあ着替えてきまーす」

にっこりと笑うマスターに返事をして、勝手知ったるなんて感じで更衣室に向かう。

火曜日の今日は、美奈ちゃんがバイトの日なんだけど、撮影が長引くからって私がピンチヒッター。

手早く制服に着替え、髪を上げる。
珊瑚礁の制服が好きだけど、ここの制服も可愛くて好き。

姿見でおかしい所がないかチェックしてから、店に出る。

「じゃあ、早速で悪いけど8番にブレンド頼むね?」

「はい! 今日はよろしくお願いしまーす」

アルカードの客層は珊瑚礁とはまったく違う。時間で変わると言うか、さまざま。
今の時間なら、買い物に来た人が多い。

「大変お待たせいたしました。」

うーーん、やっぱりいい香りだなぁ。
テーブルにカップを置きながらしみじみと思う。
酸味があるんだけど苦味とのバランスがいいんだよね。香りも抜群だし。

こういうのって珊瑚礁でバイトするようになって、分かるようになったんだけど。

客層がサラリーマンだけの時間帯になると、必ず来るお客さんが居る。

「そろそろかな? 天音ちゃんコーヒー頼める?僕はツナサンド作ってくるから。」

「はいっ!!」

他のコーヒーは無理だけど、これだけは淹れられるんだよね。

きっと一緒に来るだろうと、二人分のコーヒーをサイフォンにセットする。

ロートからコーヒーが落ちてくる頃 ちょうどいいタイミングでドアが開いた。

「こんちは。」

「いらっしゃいませ! ……って、あれ? 美奈ちゃんは?」

顔を覗かせたのは珪くん一人。
てっきり二人で来ると思ってたのに。

「まだやってる。俺は先に休憩」

「そうなんだ。……一緒だと思ってたから、二人分淹れちゃった」

「それなら天音ちゃんも休憩にしたら?こっちも二人分だから。」

奥から出て来たマスターが、トレイのツナサンドの隣にコーヒーを乗せ、珪くんのお気に入りの席に運ぶ。
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