特別な年賀状

「今から あの人込みのゴミになるんだな。……俺達」

神社の入り口で 思わず独り言。
人が多いのは覚悟していたが、まさかここまでとは。

「もう!嫌な言い方しないでよ!」

呆れる天音を見て やっぱりまずかったかな?と不安に思う。

よく考えたら 方向音痴だったよな。

それも 方向感覚さえない重度の方向音痴。
神社なんだし まっすぐ行ってまっすぐ帰って来るだけなんだけど……
はぐれるのはちょっとな。

「人多いから 手、貸せ」

「手?」

「さらっと言ったんだから 止めるなよ。はぐれるのは困るだろ? だから手!」

「なるほど!さすが佐伯くん!頭いい!」

夏と同じ事を言っている天音にチョップ。
正月早々 いい角度で決まる。

「も〜! お正月なんだからチョップは止めてよ」

「お前がバカな事言ってるからだ!ほら 行くぞ!手!」

「はぁい」

キュッと繋がれた小さな手に意識がいかないよう歩き始める。
人の波に押されないよう 気持ち自分の前になるよう歩かせる。
肩でも抱けば 後ろから押される人から守れるんだけど……

いや。それはマズイ。かなり。うん。

やっとの思いで お参りする。
薄目を開けてちらっと見れば、かなり真剣な横顔。

ぷっ 眉間にシワ寄せてる。面白い。

何をそんなに祈る事があるんだ?
俺なんてひとつしかないぞ?
そこまで考えて、自分が何も祈ってない事に気付いた。

いつもは信用してないから 俺の言うことなんて叶えてくれるかどうかも分からないけど……

だけど 今の俺の願いは一つ。
一つだけなら聞いてくれる……よな?

参り終えて 人込みから少し外れる。

「ホントに凄い人だったよね?」

「あぁ。そういやお前かなり真剣な顔してたな?」

「えっ?見てたの?」

「見てた。凄いシワ寄ってた」

「うそっ!」

ものすごい早さでオデコを隠す。
いまさら遅いだろ?

「あははは! もう遅いって!で? 何をお願いしたんだ?」

「も〜! 内緒! 佐伯くんの方こそ、何をお願いしたの?」

「あ? それはだな……。まぁ な。うん」

「商売繁盛だったら お願いに入らないんだからね?」

「商売繁盛? ……いけね。忘れてた」

一緒に行くと引かない天音と、待ってろと引かない俺。
一悶着の後、二人でお参り。

折れたのは俺。

天音の言うことに納得したのと、一人残すのはやっぱり心配だったから。
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