向き合う勇気

軽く息をはいて 眼鏡を外す。
いきなりの展開だから、まともな視力で向き合う余裕はない。

「……ひとつだけ聞いていいか?」

「うん。いいよ?」

天音がこっちを向く気配がする。
俺は、教科書に視線を落としたままだ。

「……針谷とは仲いい……の?」

回りくどい聞き方。
自分が傷つかない聞き方だよな。
好きか嫌いかと聞けばいいのに。

「仲いい……って、友達だから仲いいんじゃないかな?」

「……友達?」

あっさりと答えられ、思わず顔を上げる。

今 友達って言ったよな?
なんの迷いもなく。

天音はキョトンと俺を見つめている。
多分 こんな質問をされるとは思ってなかったんだろう。当然と言えば当然だけど。

「うん。……友達だけど……?」

って事は、天音には特別な感情はないわけだ。

「……ふ〜ん。そうなんだ」

よかった。針谷を好きじゃないんだ……

一つ気になっていた問題が解決して、テストもわりと集中出来ていた。
もう一つ気になっていた問題。
針谷がどう思ってるのかも テスト期間半ばに知った。
屋上でたまたま 志波と針谷の会話を聞いたからだ。

針谷の中では 天音はイイ奴止まりのようだ。
今は……だけど。
針谷がもっと天音を知ったら きっと好きになる。とは思う。

でもそんなのは 針谷だけじゃない。
志波だって クリスだって……

気にしてたらキリがないんだよな。
そりゃあ気になるけど。

安心は出来ないけど、ちょっとホッとした成果は テストの成績にも現れていて俺は胸を撫で下ろした。
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