向き合う勇気
迫り来るテストよりも気になる事の解決が、あっさりと向こうからやって来た。
テスト前になると朝練もなくなるから、早く登校して教科書を広げる。
夜中や早朝に店でやるより学校でやった方が 案外効率がいい。生徒が登校するまでの短い時間、かなり集中してやれる。
誰か来る頃までにはコンタクトにすればいいだろうと眼鏡で勉強していたら、突然扉が開いた。
なんでこんな時間に天音が来るんだ?
登校するにしては、早すぎるだろ。
「おはよう 佐伯くん……」
「……あぁ おはよ………何?」
「佐伯くんって 眼鏡かけるんだね?」
そうだ。眼鏡をすっかり忘れてた。
「目 悪いやつは持ってるだろ。普通」
なんか変な答えだ。普通ってなんだよ。俺!今まで知らなかったんだから、普通って言ってもわかるわけないだろ。
「本読む時は こっちのが楽なんだ」
「そうなの?でも授業中してないよね?」
おい。珍しくするどいツッコミだよな。
普段はぼんやりのくせに。
「だって…… カッコ悪いだろ?眼鏡」
「そうかな? 似合ってると思うけどな」
そうか?似合ってるか?
なんかちょっと嬉しいかも。
いや。俺は自分の眼鏡姿は嫌いなんだよ。
「似合ってないんだ! あ〜 もういいから こっち向くな!気が散る!」
「わかった。ごめん」
俺の動揺や葛藤に気付かず あっさりと前を向く。
なんだよ。普通に勉強なんて始めるなよ。
たしかにもうテストだけどさ。
お前 針谷とだったらいつも笑って話してるだろ。
真剣に問題集を見つめる天音に心の中で毒づく。