想いを込めて

「とりあえず、座ってて!」

鞄をカウンターに放り投げると、エスプレッソの豆を用意する。
うちのブレンドもあるけど 教えてもらったロブスタとブラジルサントス。
ローストグレードがイタリアンになるまでは21〜22分。
黙ったままローストする俺をと言うより豆を 大崎はじっと見ている。

気付いてるよな?俺が何を始めたか。
その証拠に、シティに入る頃には俺を見てにっこりと笑っていた。

エスプレッソは極細挽き。かなり神経を使う。
発熱と微粉を最小限に押さえる事とばらつきを少なくする事。これが一番大切だから。
普段はじいちゃんの仕事だから 俺は このためだけに練習して来た。かなり 時間はかかったけどな。

「なぁ。あっちの席で待ってろ」

顎で窓際のテーブル席を指す。
分かったと席を移る大崎の後ろ姿をちらっと見てから 意識を集中させ豆を挽く。

細かく挽かれた粉がふわっと宙を舞う。
店中が独特の芳香に包まれる。
摩擦熱が起きないよう、粒を揃えるよう注意深く挽いていく。
ようやく 思った通りに挽き終わりホルダーに詰める。

豆の量は15グラム。25秒で抽出。タンピングは均一に真っ直ぐ。

あのマスターに教わった。
じいちゃんにも聞いてみたら、教わった通りに練習しなさいと言われた。
やっぱりかなり凄い人なんだろう。

(ゆっくり落ち着いて丁寧に。)

あの時聞いた言葉を何度も思い出し練習してきた。今日 この日のために。

「お待たせいたしました。カフェジェラートでございます」

大崎の前にコトリと置くそれは、あの店で教わったアレンジコーヒー。

「わぁ〜! 綺麗……」

瞳を輝かせて グラスを見つめる。

「ちょっと待ってろ」

自分の部屋まで駆け上がると 机にあるものを掴み また階段を駆け降りる。
大人しく待っている大崎の前にそれを置いた。

「天音。誕生日おめでとう」

「これ…… 私に?」

「あぁ」

「開けていい?」

「あぁーーっと ダメ。それは帰ってから開けてくれ」

「? わかった。じゃあ こっち頂くね?」

嬉しそうにグラスを眺めた後 口をつけた。

「美味しい……。佐伯くん ホントに美味しい!覚えていてくれてありがとう!」

満開の笑顔につられて笑う。
今日、無理に連れて来てよかった。
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