想いを込めて
気になる事はあるけれど、今日は大切な日だし ちゃんと祝いたい。
俺の時に祝ってくれて嬉しかったから、少しでもその時の気持ちを返したい……と思う。
―――だから 帰りに捕まえないと。
待ち伏せなんてやらないし、ガラじゃないけど 玄関で待ち伏せ。
女子に捕まったらアウトだなって思ってたけど、今日に限って人もまばら。
俺 案外運がいいのかも。
(……まったく……何やってんだ………)
暢気に歩いている大崎の後ろに回り込み、十八番を決める。
「こら!遅いんだよ。お前は」
「いたっ! もう!……って佐伯くんどうしたの?」
「どうしたの? じゃないだろ!一緒に帰る約束してただろ!」
「えっ? してたっけ?」
「………してた」
「え〜〜? いつしたっけ?」
首を捻って、かなり真剣に悩んでいる。
答えなんか出るはずがない。
そもそも約束なんてしてないんだから。
「してたんだ!」
「ごっ ごめんなさい!」
言い切る俺に、青くなった大崎が頭を下げる。
なんか……罪悪感。大崎は悪くないのに。
「そっ それじゃ……行くぞ」
「はいっ!」
さっさと歩き出す俺の後ろから、慌ててついてくる。
「そうだ! 今日のお昼はどうもありがとう。びっくりしたけど、すごく嬉しかった!」
「あ? あぁ。あれは西本が…… 俺は知らなかったぞ?」
「それでも 嬉しかったよ?」
「つーかさ。誕生日くらい教えとけ」
軽く頭を叩く。
知ってたら こんなに慌てず落ち着いて用意してやれるのに。
「お前さ 今から珊瑚礁へ来いよ」
「えっ?今から? 」
「そ。今から」
「どうして?」
「いいから来い!あんま時間ないから急ぐぞ!」
開店準備を考えたらゆっくりしている時間がない。
ちょっと躊躇したけど 手首を掴む。
びっくりして目を丸くしている大崎を無視して 駆け出した。