花屋と彼氏とコーヒーと
「あら? 天音ちゃん」
「志穂さん こんにちは」
逃げ出す事に失敗した私は、諦めて頭を下げた。
「有沢 知り合い?」
「ええ。友達のいとこの子なの。天音ちゃん 今日はどうしたの?」
「あ!有沢。こっちの珊瑚礁さんが秋のイメージで切り花見繕ってくれって」
「珊瑚礁さん?」
佐伯くんをじっと見つめた志穂さんのメガネがキラリと光った……気がした。
「あぁ!あなたが例のサエキくんね?小波さんと葉―――」
「志穂さん!私も手伝う!」
慌てて志穂さんを店に押し込む。
やっぱり、かなりの誤解があると思う。
二人になんて言われたかわかんないけど。
「天音ちゃん どうしたの?」
「あのね。珪くんの事 誰にも話してないの。騒がれたくないから」
「あぁ。彼そういうの嫌いだものね」
志穂さんは私の話しを聞きながらお花を選び始めた。
「あとね? ここからがとっても重要なんだけど……佐伯くんは彼氏じゃないの。あの二人が…特に美奈ちゃんが勘違いしてるだけなの!」
「そうなの?私もお似合いだと思うけど」
「志穂さん!」
クスクスと笑った志穂さんが、私の後ろに話しかけた。
「こんな感じでどうかしら?」
「あ はい。いいと思います。ありがとうございます」
「さっ 佐伯くん。あの……どの辺りからそこにいたの?」
「美奈ちゃんがーってところ?」
「そっ そっか」
「お前 何慌ててんの? 変だぞ?」
「変って……私の知り合いが、あちこちで間違った情報撒き散らしてるんだよ?それに これは佐伯くんの事でもあるんだから!」
「お前のいとこさんって面白いのな?」
本当に面白いのか笑っている。
……佐伯くん 何を暢気な事を……
危険なんだよ? 絶対に。