07 喧騒の中の静寂

「ねぇ。どうやって入ってきたのよ」

ダイニングテーブルに押し込められた椅子を引き座る。
佐伯はこちらに背を向けていて、直立不動だ。

「聞いてるの?」
「ふっ、服は……?」
「着たわよ」
「そ、そっか……よかっ」

飛び上がらんばかりに肩を上げた佐伯が、深い息と共に肩を下ろし、ゆっくりと私に向かって振り向いた。

「―――くない!着てない!全然変わってない!」
「着てるでしょ!そんな事言いに来ただけなら帰んなさいよ!」

また両手で顔を隠した佐伯が悲鳴を上げる。

だから、なんでそんなに乙女なんだ。

しかも、今はちゃんとキャミソール着てるんだから、勘違いも甚だしい。

「かっ、帰らないし!」

意を決したように顔から両手を離す佐伯。
でも、視線が宙を彷徨い過ぎていて鬱陶しく、苛々が募る。

「……はぁ。ちょっと待ってて」

椅子から立ち上がると今度は寝室へ。
クローゼットから白のシャツを一枚。
流石にこれなら文句も出ないだろう。

「それで?」
「そんなに変わって……むしろ意味深……ええっと!なんか、ろくなもの食べてないかと思って!」

ギロリと睨むと慌てて私に背を向ける。そして、次にこちらを向いたその手に持っていたのはさっきのお椀。
そういえば、さっきまでは何もなかったはずなのに、テーブルの上には細々した小鉢。

「また……渋いとこついたわね」
「脂っこいもの、好きじゃないんだろ?」
「まあ……そうだけど」

カウンター越しに伸ばされたお椀を受け取り中を覗く。
大根、人参、かぼちゃ……なんか具沢山のお味噌汁。

「食材残しても使わないだろうと思ってさ」

テーブルの上には、それらを使った料理が並んでいる。
確かに、残った野菜を冷蔵庫に入れたところで、私が使うわけはなく、そのまま腐海の森になるのがオチだけれど、それなら持って帰ればいいだろうに。

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