「ねぇ。どうやって入ってきたのよ」
ダイニングテーブルに押し込められた椅子を引き座る。
佐伯はこちらに背を向けていて、直立不動だ。
「聞いてるの?」
「ふっ、服は……?」
「着たわよ」
「そ、そっか……よかっ」
飛び上がらんばかりに肩を上げた佐伯が、深い息と共に肩を下ろし、ゆっくりと私に向かって振り向いた。
「―――くない!着てない!全然変わってない!」
「着てるでしょ!そんな事言いに来ただけなら帰んなさいよ!」
また両手で顔を隠した佐伯が悲鳴を上げる。
だから、なんでそんなに乙女なんだ。
しかも、今はちゃんとキャミソール着てるんだから、勘違いも甚だしい。
「かっ、帰らないし!」
意を決したように顔から両手を離す佐伯。
でも、視線が宙を彷徨い過ぎていて鬱陶しく、苛々が募る。
「……はぁ。ちょっと待ってて」
椅子から立ち上がると今度は寝室へ。
クローゼットから白のシャツを一枚。
流石にこれなら文句も出ないだろう。
「それで?」
「そんなに変わって……むしろ意味深……ええっと!なんか、ろくなもの食べてないかと思って!」
ギロリと睨むと慌てて私に背を向ける。そして、次にこちらを向いたその手に持っていたのはさっきのお椀。
そういえば、さっきまでは何もなかったはずなのに、テーブルの上には細々した小鉢。
「また……渋いとこついたわね」
「脂っこいもの、好きじゃないんだろ?」
「まあ……そうだけど」
カウンター越しに伸ばされたお椀を受け取り中を覗く。
大根、人参、かぼちゃ……なんか具沢山のお味噌汁。
「食材残しても使わないだろうと思ってさ」
テーブルの上には、それらを使った料理が並んでいる。
確かに、残った野菜を冷蔵庫に入れたところで、私が使うわけはなく、そのまま腐海の森になるのがオチだけれど、それなら持って帰ればいいだろうに。
07 喧騒の中の静寂