06 喧騒の中の静寂

ピンポーン

湯船にのんびり浸かっていると聞こえるチャイムの音。

ピーンポーン

さっきより間延びしたチャイム。
勝手に量産した合鍵はあるはずだし、なによりその鍵自体開いているというのに、なぜ入ってこないのか。
放っておけば勝手に入ってくるだろうと無視を決め込み、深く沈み込んで手足を伸ばす。

「あー。気持ちいー」

二人は余裕で入れるバスタブと、その長さ分あるガラス窓から入る光は開放感たっぷりで、ついつい長風呂気味になる。
テレビ見たり音楽が聴けたりしたら、きっと何時間でも入っていられるだろう。

「はぁ……、さっぱりした。そういえばいるの?」

窓から差し込む白い光が赤くなり、うっすらと夜になる頃、のんびりしすぎて湯あたりした身体にバスタオルを巻きつけ、頭をタオルでガシガシと拭きながらリビングの扉を開ける。
ガコンと何か硬いものが床に落ち、転がる音。

「何してんの―――」

頭から被ったタオルをずらしながら言いかけて思わず止まった。
対面式のキッチンの向こう側に、白い頭の光輝がいる。
違う、佐伯の格好をした光輝、
いや、紛れもなく佐伯本人。
胸の辺りで上げた両手で何かを空中に作ろうとしている。わけではなく、持った何かを落としたらしい。
その証拠に、ダイニングからキッチンに続く通路に落ちているのは、漆塗りの所謂汁椀。
得体のしれない何かを空間に作ろうとしていた佐伯は、鳩が豆鉄砲をくらった顔で頭から足先までを眺めた、と思ったら、漫画のように顔を真っ赤に染めた。

「な、な、な、な―――!!」
「うるさい!」
「だ、だ、だ、だっ―――!」
「だからうるさいって!なんであんたがいる―――って、なにしてんのよ」

宙に浮いた両手で顔を覆い隠しキッチンにしゃがみ込む佐伯。

だから、あんたは乙女か。

その反応は、本当の女である私がするべきじゃないのか。しないけども。

「ふ!服着て―――」
「着てるじゃない」
「それは服じゃない!タオル!!タオルだから!!」
「似たようなものじゃない。素っ裸じゃないんだし」
「違う!全然違うから!!ちゃんと服!」

自分の家だからいいじゃん。とはいえ、このままではらちがあかない。
仕方ないから洗面所に戻り、着替えが入ったチェストを開ける。
まぁ、これなら大丈夫だろう。ちゃんと服だし、夏にはこれくらいの格好してるし。

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