03 喧騒の中の静寂

私を見下ろす志波の向こう側は天井。
片方の手首は縫い止められているが、もう片手は私の背中を抱きとめている辺り、倒れる衝撃を吸収させたのだろう。
ここにも手馴れた奴が一人。ただ、こいつは本当に手馴れていてもなんらおかしくない気がするから怖い。

「おまえが望むなら」
「そう。それじゃあお願いしようかしら?」

ただ、本能的に危険を感じないのは、志波にまったくその気がないせいだろう。
空いた片手で志波の頬を撫で、誘うような軽口を向けてもその印象は変わらない。

「なにやっとるん、あんたら」
「オイオイ、パンツ見えっぞ」
「みんな、なにやって―――!?」

顔を寝室に向けてずらすと、針谷を連れ立ったはるひが入ってくるのが見えた。
まだ2度目の針谷ですら耐性が付いたらしく、2人は呆れ顔だ。
その後ろからひょっこりと顔を出す佐伯の目が大きく見開いたのを見て、ついこいつを忘れてた事を思い出した。

「な・な・な―――!志波ーー!俺の鈴香から離れろーーっ!針谷も見るなー!!」
「見てねぇし見ねぇよ!!」
「ちょっと佐伯くん聞き捨てならないわね!鈴香ちゃんは私の鈴香ちゃんなのよ!?」

飛び込んできた佐伯が志波の背中に張り付いて引っ張る。
そんな中、とばっちりの針谷と、急にスイッチが入ったようなあかりちゃん。
この、混沌とした空間の中で火種を蒔いた張本人は、肩を震わせながら俯いていた。

「はいはーい。あんたら戻るでー」

見た目には分からないが、爆笑中らしい志波を挟んで、言い争いをしている佐伯とあかりちゃんを引き連れ、はるひはリビングに戻っていく。
その珍光景を見送っていた針谷が、まだ呆れた表情のまま私に顔を向ける。

「よくあんなの見て平然としてられっな。やっぱ別人だぞ?」
「嫌でも慣れるわよ。っていうか、あんたも耐性付いてるわよ?」
「それ、マジ付きたくねぇわ」
「残念ね。もう手遅れよ?」

リビングから響いてくる佐伯の怒鳴り声を聞きながら、心底嫌な顔を浮かべる針谷の肩を叩き連れ立って戻る。
佐伯は志波に、あかりちゃんは佐伯にまだ噛み付いたままだった。
五月蝿い2人に挟まれた志波は、さっきまでと違いまるで聞こえてないふりをしている。

自分に害が及ぶのを避けるためか、気配を消しながら針谷ははるひの隣に座っていた。
空いた場所は必然的に佐伯の隣。
うんざりとしつつも仕方がないので腰を落ち着ける。

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