02 喧騒の中の静寂

「……料理、本当にしないんだな……」
「悪かったわね。ほら、これに氷入れて。飲み物もね」
「あ、ああ」

呆気に取られる佐伯にグラスを渡す。
確かに、調達してきたペットボトルを除けば、ミネラルウォーターくらいしかないだろうから、呆れるのも無理はない。
それにしても、どこで紛れ込んできたんだろうかと佐伯の背中に大きく溜め息を吐いた。

「なんで溜め息なんだ」
「あんたがいるんだもの」
「なんで居たら溜め息なんだ」
「だって、家がバレてるだけでも面倒なのに、部屋までだなんて」
「なんで―――」
「すごーい!寝室もひろーい!」

いつの間に家探しを始めたんだとシンクからリビングを覗くと、はるひやあかりちゃんはともかく、志波や針谷までいない。
人がちょっと目を話した隙に何をやってるんだと、佐伯を残して廊下に出る。

「あんたたち、なにやって―――」
「鈴香!めっちゃお風呂広いやん!」
「鈴香ちゃん!ベット凄く大きいよ!?」

別々だけれど同時に上がる声。
針谷は流石に遠慮がちにバスルームを覗き込んでいるだけだが、志波がいない。
体格的にはあっちかと、寝室を覗く。

「鈴香ちゃん鈴香ちゃん!ここで寝てるの?」
「そりゃあ……ベットだしねぇ」
「それに景色もすごーい!」

ベットに並行している窓を開け、ベランダに飛び出すあかりちゃん。
そんなに珍しくもないだろうに、まるで遊園地にでも来たかのようなはしゃぎぶりだ。
志波はベットの脇に佇み、まるで巨大なオブジェのよう。

「あんた、女の寝室にまで入るなんていい度胸じゃない」
「……広いな。一人で寂しくないか?」
「あら。寂しいって言ったら慰めてくれるの?」

志波の隣に並び見上げると、一転して世界が反転。
背中にはふわりと柔らかい感触。そして目の前には志波。

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