20 秋の芝生はまだまだ青い

「言ったから……。本当にしたい時、って」
「ちがうでしよ。なんですり替わってんの」
「したい、から……?」
「……発情してんじゃないの!」

揺らす葉月が私に近付いた瞬間の言葉は耳を疑うもので、思わず片手で頭を軽く叩く。
浮き上がっていた葉月の上半身がまた芝生の上に横たわると、長い両腕が宙に浮き、私を迎え入れるように広げられた。
王子の異名を持つだけあって、これは反則で犯罪に近い破壊力だ。

「でも……したい」
「……あんた、我が儘って言われてるでしょ」
「言われない。おまえにだけ、だから」
「訂正するわね?我が儘じゃなくて性格悪いのね、あんたって」

どうあっても自分を通すつもりだ。
逃げ出そうとした瞬間、また身動きがとれなくなるのは間違いなく、ものすんごく不本意だけれど、黙らせる道はひとつしかないように思えた。

主導権はこっち。だから広げられた腕も無視。

葉月の顔の真横に左肘を付き、ゆっくり体重を預ける。
顔を近づけながら右手の人差し指で葉月の唇をなぞり、そのまま掌で頬を撫で上げた。

「もういちど、だけよ?」

吐息がかかる距離で囁きながらそっと唇を重ねると、葉月が息を止めるのが分かる。
でも、これならさっきと変わらない。したいのはそっちなんだから望み通りに。

重ねた唇をずらして喰む。下唇、上唇、どちらも合わせて。何度も、ゆっくりと。
それまで開かれていた瞳が閉じていき、反対に喰まれる唇が僅かに開く。
右の指先は、耳裏の首筋を。
そして、開かれた唇を重ねてその僅かな隙間を舌で撫で上げた。

「―――ん、っ―――」

漏れるのは葉月の声。
私の両肩で感じる葉月の腕が驚いたように小さく跳ね上がり、自己申告が嘘じゃないのが分かる。
ぼやける視界に映る眉の動きが、指先に伝わる首筋の熱が、葉月の戸惑いを正確に表す。

ふーん。けっこう可愛いとこあるじゃないの。

そんな反応は久しぶりに見るもので、葉月ならどうなるだろう。と、ちょっとした好奇心と悪戯心が持ち上げる。

さっきよりも少しだけ唇を押し付け、這わせた舌を滑り込ませた。
経験がなくても知識はあるのか、それとも条件反射なのか、あっさりと私を受け入れる葉月。

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