19 秋の芝生はまだまだ青い

やけに遠く感じる人の声。
それよりも遠いはずなのに、まるで周波数を合わせたみたいに空を飛ぶ鳥の声が近くに聞こえる。
ここだけを切り取れば穏やかで爽やかな日曜のひとときだけれど、私の頭の中は葉月の言葉の意味を理解しようとフル回転していた。

「平気…とかじゃない。」
「……そうは見えないわね。」
「ドキドキしてる。……ほら。」

真っ直ぐ見つめられる瞳に動揺を悟られないよう、呼吸を潜める。
そんな私の葛藤には気付かないのか、後頭部に当てられたままの手が葉月の胸元へと力が込められ、頭を抱えられたような状態で地面と平行になる。
葉月の服の隙間からは、少し色褪せた芝生の緑が風に揺れていた。
通常よりも早く聞こえる鼓動。なんとなく熱っぽい身体。
ぐるぐると意味もなく回転しているだけだった頭の中が途端に落ち着く。

「それなら、もっと相手を選びなさいよ。他にいるでしょ。夏に居た娘とか、夏に居た娘とか。」
「迷惑、か……?」
「話をすりかえないの。そういうのは、本当にしたい娘となさい。」
「本当に……。」

胸に当てた頭の芯に響く葉月の呟きで、やっと納得したかと頭を起こし、さて、そろそろここから移動するかと頭を持ち上げてそっと辺りを見渡す。
どうやら聞こえていた黄色い声の持ち主達は諦めて居なくなったようだった。

「もういないみたいよ?場所、移さない?」
「……なあ。」
「なに?」

いい加減、気を使って葉月に体重を預けるのも疲れたと、腕で体重を支えながら膝をついて四つん這いになり、じっと私を見つめていた葉月を見下ろす。
さっきの話の続きで、行きたい店があるとか、気になる物があるとか。そういう建設的な会話が出来るかと、葉月の言葉の続きを待った。

「……もう一度、したい。」
「はぁっ!?」
「……キス。城峰と。」
「あんたねぇ……。バカなの?バカなんじゃないの?人の話聞いてた?頭いいからはば学に行ってるんでしよ?その頭はお飾りなの?なんなの?」

糠に釘、暖簾に腕押し、馬耳東風。
さっきまでの会話は不毛だったのかと怒りに任せ、葉月の襟元を両手で掴み思い切り揺さぶる。
バカ白髪の直球おバカよりも、話がまるで噛み合わない葉月の方がストレスだ。
今回だけじゃなく、今までの積もり積もったものまで思い出し、容赦も遠慮もなくガクガクと揺さぶった。
もしかしたら衝撃で元に戻るかもしれないし。いや、戻って欲しいという切実な願いがあるのだけれど。

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