頬から耳、そして後頭部へと滑る掌。
その掌よりも指先の方がより強く感じられる。
そんな手が私の後頭部を支えて引き寄せる。
奥の奥まで透き通ったような、純度の高い宝石を見ているような美しい瞳。
―――ああ。綺麗。
そんな言葉が頭に浮かんで消える前に感じる一瞬の暖かさ、はっきりと分かる唇の形。
そして、ぼやけた緑の瞳が再び焦点の合う位置まで離れる。
「……貰ったから…行かない。」
「―――あんた、ねぇ……。」
瞳の奥底まで見つめるような真っ直ぐな視線。
予想だにしていなかった展開に飲んだ息と共に呟いた。
これはいったいどういう事なのか。
考えがまるで読めない表情とスマートすぎる行動で真意が分からない。
15の子供に翻弄されるなんて……あまりにも…。
「手慣れすぎてるでしょ…。」
「どうして……?」
思わず吐いてしまった私に、きょとんと見つめる葉月。
その表情はさっきのものとはかけ離れた、どちらかと言えば年相応、もしくはそれ以下の年齢に見える。
これを素でやってるとしたらタチが悪すぎると溜め息を吐いた。
「自覚ないの?警戒されないくらい自然にキスできるなんて、手慣れてるとしか―――。」
「……初めて。」
「でしょ?そうとしか―――って…?」
今、なんて?
耳に入った言葉が聞き間違えなのか。
私の脳がそうであればいいと思っているのか。
どちらが本当なのかと葉月を見つめた。
「俺、初めて。…キス。」
「初め…?」
「ああ。」
「………。」
初めて。初めてとは。
主人公ちゃんといい感じだったのは事故…。いや、あれは羽学限定だっけ?
こっちでは……そうだ。ぶつかっただけ。最後で思い出した時にそんなシーンは……なかったような、そうじゃなかったような…。
「どうかしたのか…?」
「―――どうかしたのかじゃないでしょ!」
そう。どうかしたじゃない。
毎日会ってる訳でも、頻繁に会ってる訳でもない。
なんでそうなるの!なんでそんなしれーっと疑問すら浮かばないみたいな顔してんの!
相手が!相手が違うでしょう!
「…いたい……。」
「…私も痛いわよ。」
ごつと脳内に響く鈍い衝撃音。
腕は自分の体重を支えているから攻撃は頭突きのみ。
反動がそのまんま自分にも返ってくるが仕方ない。
「あのね。男と女じゃ違いはあるだろうけど大事なものでしょ。なんで平気でそんな事するの!」
「平気……なわけじゃない。」
18 秋の芝生はまだまだ青い