18 秋の芝生はまだまだ青い

頬から耳、そして後頭部へと滑る掌。
その掌よりも指先の方がより強く感じられる。
そんな手が私の後頭部を支えて引き寄せる。
奥の奥まで透き通ったような、純度の高い宝石を見ているような美しい瞳。

―――ああ。綺麗。

そんな言葉が頭に浮かんで消える前に感じる一瞬の暖かさ、はっきりと分かる唇の形。
そして、ぼやけた緑の瞳が再び焦点の合う位置まで離れる。

「……貰ったから…行かない。」
「―――あんた、ねぇ……。」

瞳の奥底まで見つめるような真っ直ぐな視線。
予想だにしていなかった展開に飲んだ息と共に呟いた。
これはいったいどういう事なのか。
考えがまるで読めない表情とスマートすぎる行動で真意が分からない。
15の子供に翻弄されるなんて……あまりにも…。

「手慣れすぎてるでしょ…。」
「どうして……?」

思わず吐いてしまった私に、きょとんと見つめる葉月。
その表情はさっきのものとはかけ離れた、どちらかと言えば年相応、もしくはそれ以下の年齢に見える。
これを素でやってるとしたらタチが悪すぎると溜め息を吐いた。

「自覚ないの?警戒されないくらい自然にキスできるなんて、手慣れてるとしか―――。」
「……初めて。」
「でしょ?そうとしか―――って…?」

今、なんて?
耳に入った言葉が聞き間違えなのか。
私の脳がそうであればいいと思っているのか。
どちらが本当なのかと葉月を見つめた。

「俺、初めて。…キス。」
「初め…?」
「ああ。」
「………。」

初めて。初めてとは。

主人公ちゃんといい感じだったのは事故…。いや、あれは羽学限定だっけ?
こっちでは……そうだ。ぶつかっただけ。最後で思い出した時にそんなシーンは……なかったような、そうじゃなかったような…。

「どうかしたのか…?」
「―――どうかしたのかじゃないでしょ!」

そう。どうかしたじゃない。
毎日会ってる訳でも、頻繁に会ってる訳でもない。
なんでそうなるの!なんでそんなしれーっと疑問すら浮かばないみたいな顔してんの!
相手が!相手が違うでしょう!

「…いたい……。」
「…私も痛いわよ。」

ごつと脳内に響く鈍い衝撃音。
腕は自分の体重を支えているから攻撃は頭突きのみ。
反動がそのまんま自分にも返ってくるが仕方ない。

「あのね。男と女じゃ違いはあるだろうけど大事なものでしょ。なんで平気でそんな事するの!」
「平気……なわけじゃない。」

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