16 秋の芝生はまだまだ青い

日曜日の公園で女が男を押し倒す。
これはどう見てもバカップルとやらがイチャコラしているようにしか見えないだろうが、周囲の視線を隠す私の髪の内部では軽い言い争いが繰り広げられている。

「友達作んなさいって言ったわよね?なんであんたより私の方が満喫してるっぽいのよ。」
「満喫……あいつと?」
「ちっがーう。」
「……いたい…。」

どうしたって佐伯に話を持って行こうとする葉月にそのまま頭突き。
ごつと鈍い音がして、葉月が自分のおでこをさすった。
隙間から見える肌がほんのりと赤くなっている。

「もう10月よ?半年経つのよ?今日だって私じゃなくてあの子誘えばよかったんじゃないの。」

がんがん攻めれば今頃はかなりいい感じのとこまで行くはずなのに。
まぁ、本来ならまだこいつから誘う事はまれなんだから葉月ばかりを責めるのも可哀相なんだけれど、どうやら相手は葉月以上ののんびり屋なようだから仕方ない。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、私の下でおでこをまだ隠したままの葉月は何やらブツブツと呟いている。

「……なぁ。」
「なによ。」
「10月…なんだ。」
「だからなにが。」

またとんちんかんな会話を始める気かと真下の葉月を睨みつける。
さすっていたおでこから、掌が滑り芝生の上に落ちる。
答えを待つ私と、黙ったままの葉月が暫く見つめ合った。

「……誕生日、なんだ……。」
「誕生、日。」
「そう。俺の。」

―――そういえば。

っていうか、そのイベントじたい攻略で必要だからだったわけだし、主人公がやるべきものだと思ってたし。

……いや、正直なとこ、すっきりすっかりさっぱり綺麗に忘れてただけなんだけども。

「そ、そうなの?おめでとう。えーっと、何日?」
「16日。」
「そ、そっか。じゃあ、もうすぐね?なにか欲しいものとかない?」
「……べつにない…。」

私の反応はこれで間違ってないはず。
二人で会ってる時にそんな会話した記憶はないし、下手に知ってる感を醸し出したら色々ややこしくなりそうだし。

「そうなの?次に会った……じゃなくて、今から買いに行くとかしてもいいのに。」

いやいや、次とかなんて自ら墓穴を掘りに行くようなものじゃない。
せっかくここで済ませられることを長引かせる必要はない。

さすがの葉月もここで一日を過ごそうとは思っていなかったらしく、少し考え込むような仕草で黙っていた。

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