10 秋の芝生はまだまだ青い

「なんであんたがいるのよ!」
「……迎えに……来たんだ。」

ちっがーう!その台詞はここで来るべきじゃなーい!
まったくのゲーム展開無視の発言に両手で頭を押さ身悶える。

「……おもしろいな。おまえ。」
「面白くなんかない!だから、どうやってここに来たの!」
「……支度、してないんだな。上がって待っていいか?」
「ちょっ!いいかじゃなくて上がってるじゃない!」

珍しい動物でも見たように丸く目を見開く葉月に、ドンと足を床に打ち付けても何処吹く風。
ひとつも顔色が変わる事もなく、ひょいと私をすり抜けてリビングへと進んで行く。

「いい……部屋だな。落ち着く……。」
「あんたねぇ。なんで勝手に上がり込んでソファ座ってくつろいでんのよ。」

ベランダに背を向けたソファにおもむろに座って頭を預ける葉月。図々しいという言葉がそのまま具現化されてそこにいるようだ。
こんな男ではなかったはずだ。少なくとも、私がやっていたゲームの葉月は。もしかしたら、ソフト毎に微妙にキャラ設定が違うのかもしれない。いや、私のソフトだけがバグ満載の不良品なんだきっと。そうじゃなきゃ、こんな葉月は存在しない。

「……なあ。」
「なによ。」
「支度……、しないのか?」
「そうね!しなきゃいけないわよね!」

まるで何処かの魔王のように、ソファの背もたれに両腕をかけて足を組んで座る葉月。
一人葛藤を続けていたのがバカバカしくなる。
こんな狭い空間に長く居たら発狂しかねないし、外に出た方がまだ他の事に気が紛れていいに決まってる。

「それと……。」
「あ?」
「服はあれ。」
「は?」
「買ってたやつ。」

だから、どうして単語なの。一度に言いなさいよ。しかも、あれはあんた好みのふわふわフリフリじゃないでしょう。
喉まで出かかった言葉を飲み込み、リビングの扉を荒く閉め、クローゼットのある寝室ではなくシャワーを浴びる為に浴室に向かった。

「ほんとにどうやって上がって来たのよ……。」

半時程の時間は経ったのだろうか。
ベットに放り出したものは、葉月の言う新調したばかりの服だ。
洗った髪を乾かしながら、アレコレと悩んだものの途中で面倒になり、サイドの髪を後ろで留める。

「今度洋子に会ったら文句言わなきゃ。」

ここは、セキュリティが万全で洋子のお墨付きだったはず。
まあ、普通、常識的に考えて、部屋が丸ごと移動する事でもない限り、この世界の私の部屋は、元の世界の私の部屋に似た何か。もしくは、私の目がそう見えているだけなのかもしれないけれど。

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