07 秋の芝生はまだまだ青い

カップを持ち上げたまま反対の腕をテーブルに乗せて頬杖をついた。紙袋を見つめながら、もう一度頭に自分を描くも、やはり印象は変わらない。

「じゃあ……今度の日曜バス停で。」
「は?」

葉月の後ろの壁にある額縁に飾られた、風景画なのか何なのかよく分からない抽象画を眺めながらボンヤリと考えていたせいで、私の耳が聞き間違えたのかと視線を葉月に落とす。
さっきまで紙袋を覗いていたのに、今は涼しい顔をしてコーヒーカップに口をつけていた。

「だから。今なんて?」
「 日曜の10時にバス停。」
「さっきとセリフ変わってるでしょ。それにバス停なんていくらでもあるわよ。……じゃなくて。」
「ああ。……じゃあ、おまえの家に近いバス停。場所、どの辺りだ?」
「……あんた。本当に人の話聞かないのね。」

元のベースがゲームだからなのか、ここの人間は会話が基本的に一方通行すぎる。どんなに拒否をしようが回避しようが、結果的には相手の提案通りなのだ。
かけ引けとか情緒とか、そういった此方の思考や思惑などは一切合切無視。時間の無駄どころか、反対に疲れだけが蓄積される。いい加減慣れないとこっちの精神がもたない。

「まあ、いいけど。っていうか、詳しくないのよ。引っ越してきたばかりだし、バスなんて使う場所に行った事ないもの。」
「じゃあ……どこなら行った事あるんだ?」
「そうねぇ……。」

葉月の問いに耳を傾けながら白いコーヒーカップの中の黒い液体に目を落とす。
一口飲んでから頬杖をついて、窓の外を行き交う人に目を向けた。

「ほとんどここよね。一番近いし、とりあえず暇が潰せるし。あとは、商店街方面に買い物とか……コーヒー飲むために公園方面かしら?」

その季節のお約束的な海だのなんだのを除けば見事に何処も出掛けてなどいない。
まだ半年程しか経っていないとはいえ、見事な出不精だ。
学校という強制的な外出の機会がなければ、立派な引きこもりが出来上がるに違いない。ただし、この年齢で、ならばだけど。まあ、本来の私であったとしても、ここでは同じなのかもしれないけれど。

「……飲み屋ないしね。」
「飲み屋?」
「あ?あー、なんでもないなんでもない。で?なんだっけ?」

思わず吐いて出てしまった言葉を聞き逃さない葉月を誤魔化すように首を振る。そう大きな声でもなかったはずなのに、とんだ地獄耳だ。

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