06 秋の芝生はまだまだ青い

「……同じでいいか?」
「あんた。何気に結構強引よね。」

しれっと涼しい顔でメニューを手に取る葉月に仕方が無いと溜め息を吐くと、向かいの席を引いて腰掛ける。
そのタイミングでやってきた店員は、葉月の顔を見てハッとするも、すぐに表情を元に戻し水の入ったコップを二つテーブルに並べた。

「……ホットコーヒー二つ。」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」

顔は平常心を装っていても、動揺は隠しきれないのか、注文を復唱する事なく戻って行く店員。
単純な注文だから間違える事はないだろうけれと、あの感じだと裏に戻ったら大変なんだろうな……などとボンヤリと後ろ姿を見送る。

「……学校は楽しいか?」
「あ?ええ、まあ、それなりに。朝起きるのは面倒だけどね。」
「ああ。今……寒くないからな。」
「そうそう、冬が来ると思うと憂鬱……って、あんたそんな世間話するためにここに来たの?」

不意に問われた言葉に何気無く返し眉を寄せる。本当に暇潰しの為に付き合わされているのなら、迷惑以外の何者でもない。
そして、注文したものをやたらと早く持ってくる店員の、葉月と私に対して送られる視線の温度差も見逃さない。

「……どうも。」
「ごゆっくりどうぞ〜。」

若干声のトーンが上がっている店員をまたも見送り、さっきの言葉をまるで聞いていなかったかのように涼し気な表情でカップを持ち上げている葉月に向き直った。

「で。どうなのよ。」
「……なにがだ?」
「だから。私はそんなに暇人じゃないっていってるの。」
「……なに買ったんだ?」
「あんた、とことん無視する気なのね……。」

紙袋の端を指で少し広げて中を覗き込む葉月。
飄々と天然ぶっているが、完璧にわざとだ。
これはある程度付き合わないと解放されないと諦めるように溜め息を吐くと、コーヒーカップを持ち上げた。
少し口に含んで眉を寄せる。別に期待してたわけじゃないし、こんなものだとは思うけど、ここに来てからのギャップが激しすぎる。

「……基準が高すぎるぞ?」
「分かってるわよ。これくらいが普通な事くらい。あそこが美味しすぎるのよ。」
「それで……これは?」
「ジャケットとスカート、あとストール。衝動買いだから似合う自信はないわよ?」

左手で紙袋の端をカサカサと鳴らす葉月。
少し時間が経って気分の高揚も落ち着いてきたからか、頭の中に浮かぶ自分の姿がイマイチしっくりこない。

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