05 秋の芝生はまだまだ青い

「ご…ごめんなさい。後ろに人が居ると思わなくて……。」

ぶつかった瞬間覚えのある香りを嗅いだような気もするが、それよりも鼻が痛い。
ヒリヒリとする鼻を手で押さえながら、とりあえず人として謝ると、ふっと漏れる息を感じた。

「買い忘れ……か?」

今さっき聞いた声。瞬間的に頭の中にある人物を思い浮かべ、それを確かめる為鼻を手で押さえたまま顔を上げる。
―――当たり。
でも、さっきまでの衣装とは違い、はば学の制服姿だった。

「帰るのよ、買い物終ったし。あんたは仕事どうしたのよ。ピン撮りなんでしょう?」
「終わった。あと……時間、結構経ってる。」
「えっ?うそっ!?」

そんなに長く一軒の店に居座った記憶はない。慌てて辺りを見渡し時計を探すと、含み笑いを堪えたような葉月がポケットから取り出した携帯を開いて印籠のように向けた。
あんたは何処ぞの付き人か。

「……女の買い物は長くてめんどくさいとか思ってるんでしょ。」
「……それほどは。」

一瞬の間。しかも葉月の視線がさり気なく逸れている。
当たり障りのない答えだけれど、それではバレバレだ。

「思ってるんじゃん。」
「……それで。買えたのか?目当てのもの。」
「まあね。今までにない感じ……は、いいんだけど。」

バツが悪いのか、小さく咳払いしながらポケットに携帯をしまう。
落とされた視線に合わせて紙袋を掲げ、辺りの人達にふと気付く。
どう考えても、二人で突っ立っていたら通行の邪魔で迷惑だ。

「……どうした?」
「こんなとこにいたら邪魔でしょ?って言うより、私帰るつもりなんだけど。」
「ああ。……じゃあ。」
「ええ。……って!ちょっと!!」

私達を避けるように歩く人達に顔を向けると、漸くこの状況に気付く葉月。
てっきり、別れの言葉かと思いきや、掲げたままの私の紙袋をひょいと奪い踵を返した。
何事もなかったかのようにスタスタと歩き出す葉月の背中に一瞬呆気に取られるものの、慌てて追い掛けて紙袋の取っ手を捕まえる。

「あんた。なにさり気なく強奪してんのよ。」
「……人聞きが悪い。」
「事実でしょうが。」
「そこ。喉が渇いただろ。……俺が。」

あんたがか。という私のツッコミより早く、葉月は通路の角にあるガラス張りの喫茶店の扉を開けた。
迷いなく店の奥に進むと、窓から二つ程内側の席に腰掛ける。私の紙袋は左側の椅子に置かれ、手を伸ばすにもテーブルに身を乗り出さなくては取れそうもない。

prev 5/22 next
しおりを挟む/しおり一覧

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -