04 秋の芝生はまだまだ青い

「ああ。……それじゃ。」
「ええ。頑張ってね。」

さっきまでとは違うギャラリーの声を葉月も気付いたのか、何かを言いた気な表情を残し私に背を向けた。
その姿までもが一枚の絵になりそうで思わず感心しながら、下りのエスカレーターに消える葉月の背中を横目に騒がしい場を後にする。

見渡した感じ知り合いっぽい顔はなかったから、学校で誰かに聞かれても偶然で押し切れるだろう。
さっきの会話も色気あるものでもなかったし聞こえるはずがない。
落ち着いた場所ならとんでもない破壊力だけど、葉月の声はこういう場所には不向きすぎる。

一人納得しながらふと店先に目を向ければ、マネキンに気飾れたストール。
春によく見るような淡いパステルに、薄く一枚グレーを重ねたような秋らしい色合い。

「いい感じ。」

誘われるようにふらりと店の中に立ち寄る。
少し上品なコンセプトなのか、ここに来て最初に入った店が特別だったのか、店員に追い掛けられる事もなく店内をゆっくり回る。

さっきのストールに合いそうな、少し厚手の黒いタートル。
そして、普段なら絶対手にしない赤と青が基調のパッチワークなロングスカート。

手持ちのブーツに合わせれば……ああ!このカラシ色のコートもいい!

ウェストが少しシェイプされた腰辺りまでのキルティングショートコート。
淵は黒のパイピングでフードと裏地はボア素材。
海沿いの街だから真冬には無理だろうけど、今からの季節にちょうど良さそうだ。

「ありがとうございましたー。」

心なしか声のトーンが上がった店員の声を背に店を出る。
手には大きな紙袋が二つ。
悩みに悩んだストールの色は、落ち着いた青と若草色、それにオレンジと緑のチェック柄の三枚。
ついでに、モヘアの白いマフラー。
模様編みが少し幼い感じだけど、今は高校生なんだからおかしくはない……はず。たぶん。

勢いで買ったはいいものの、今までの自分とは違うジャンルだから早くも後悔の念が頭をもたげ、軽く紙袋を持ち上げる。

「……帰ろ。」

こうなると、気分が上がるようにあちこちの店で散財しかねない自分の癖を思い出し、勢いよく振り返った。

「うわっ!?」

まさか真後ろに人が居るなんて思ってもなく、振り返りざまに歩き出して誰かにぶつかり声を上げる。
相手のちょうど胸元辺りに勢いよく突っ込んだらしく、反動で一歩後ろに下がると余程勢いが良くて相手も驚いたのか、両肩をがしりと掴まれた。

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