03 秋の芝生はまだまだ青い

一人はやけにナルシストっぽい笑顔を浮かべながらもう片方の肩に肘をつけている。
そして、その肘を預けられている方は顔色一つ変えず、向けられたカメラを見つめていた。

扱く最小限の動きと表情の変化なのに、もう片方よりも華やいで見えるのは流石だ。
たぶん、おそらく、間違いなく。もう片方とは違って本人はやる気……いや、野心とか向上心などはまったくないんだろうけれど。

覗いていたファインダーから顔を上げたカメラマンが笑いながら手を上げて立ち上がる。
それを合図にして、カメラマンに近付く二人と、慌ただしくなるスタッフ。
どうやら何かの撮影はひと段落ついたらしい。

カメラマンと会話していた一人ふと顔を上げて此方を向いた。その瞬間一斉に鳴り響く携帯カメラのシャッター音に驚きつつも苦笑いしながら手すりに預けていた身体を離した。

何故か視線が噛み合った気がしたけれど、きっと気のせい。
私は偶然この場にいるんだし、この人数の中からたった一人を見つけるなんて何のフラグだ。つーか、たった一人とか何処の佐伯の台詞だ。

話すとアレだけど見てる分には目の保養。
気まぐれでここに来たのはラッキーだったかもとフラフラ歩き掛けて、店先に顔を向けたところで不意に名前を呼ばれた気がした。

「城峰」

悲鳴のようなざわめきに掻き消された声は確かに自分を呼んでいる。
進行方向に向かって顔を上げたところに飛び込んで来た人物に、思わず固まった。

「なんであんたがここにいるの。」
「……見てた、から。」
「いや、そういうじゃなくて。仕事中でしょ?って意味。」
「今から……個別。だから休憩。」
「あー……そうなの。」

あいもかわらず単語。
調子が狂うが、人の多さの割にやけに広々とした空間で、向かい合った人物をまじまじと見つめた。

襟元と手首に華やかなファーの付いた柔らかそうな質感の皮のロングコート。
かなり着る人間を選びそうだけれど、さらりと着こなしているのが流石だ。
そして、この涼し気な表情も流石だ。

「一人……なのか?」
「ん?まあ、特に何かを買いにきた訳じゃないしね。」
「……そうか。」
「それより。いいの?あんまりサボってるとバイト代引かれるわよ?」

誰かを探しているようにさりげなく辺りに視線を向ける葉月。

そういえば、夏に会ったんだっけ。
あかりちゃんかはるひを探しているんだろうと思いながら、自分達と同じ制服姿な事に気付いて騒がしくなってきたギャラリーから離れなければと、階下の広場を指すように頭を軽く傾けた。

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