「バイトは楽しい?」
「うん!佐伯くんが居なかったら!」
「そんなはっきりと……。」
「あ!そうだ!佐伯くんが辞めて鈴香ちゃんがバイトに来たら?きっと楽しいよ!」
「それはちょっと……、そもそも佐伯はバイトじゃないでしょう?」
佐伯に絡まれる事なく無事に校門も抜け、他の生徒達と並ぶように歩く。
胸に鞄を抱えたあかりちゃんが、いい事を思い付いたとばかりに両手を打ち合わせるけれど、口から出る言葉はいい事とは程遠く突拍子もない。
顔を合わせているだけでも親密度は上がりそうなのに、ここまで邪険に扱うのは何故だ。
「そっか!お家のお手伝いなんだから、無理にやらなくてもいいんだもんね!マスターに相談してみよ〜っと。」
「えっ!?そういう意味じゃ……。」
「じゃあ、私行くね!鈴香ちゃん、また明日ね!」
「あっ!ちょっ!」
片手を振りながら軽やかな足取りで走り去るあかりちゃん。
呼び止めようと腕を伸ばすものの、その後ろ姿はすぐに他の生徒達で見えなくなった。
「……まあ……いっか。」
何をどう言ったところで、佐伯は好きでやってるんだし、何よりそんな突拍子もない事を受け入れられるはずもないし。
思い付いた事を言っただけで、まさか本気なわけはないだろうと、追いかけるのは止めた。
さて、このまま真っ直ぐ帰るべきか。
さっき昼寝したおかげで気分はすっきり、秋の空は穏やかで天気もいい。
最近まで続いた残暑でご無沙汰気味だった買い物なんていいかもしれない。ちょうど秋物とか欲しかった事だしと、マンションがある交差点を通り過ぎ、臨海方面に足を向ける。
モールの中は普段見慣れた羽学の制服が多い。これは多分立地的なものだろう。
はば学生なら商店街方面の方が近いし、学生の遊ぶだろう場所はあちらの方が幅が広い。
とりあえず端から見て回るかと店先を眺めながらゆっくり歩いていると、女の子達の黄色い歓声に何事かと顔を向けた。
手すりにズラリと並んだ女の子達が中庭のある一階を見下ろし、手を振ったり携帯を向けたり。
まさか、一般人に大騒ぎしているわけではないだろうし、アイドルか何かのイベントでもやっているのだろうか。
こっちで流行っている芸能人なんて知らないけど、あまりの歓声に野次馬よろしく運良く空いている隙間に割り込みと下を見下ろした。
「……あ。」
照明だのレフ板だの、ある意味見慣れた機材の真ん中で、この場には似つかわしくない真冬の格好をした若者が二人。
02 秋の芝生はまだまだ青い