01 秋の芝生はまだまだ青い

天高く馬肥ゆる秋。
夏の照りつけるような太陽も和らぎ、新学期が始まって一月も経ち、学生という名の日常が戻ったとはいえ、午後の授業は窓辺に座る者達にとって試練のような時間だ。
開けた窓から柔らかく入る暖かな風と穏やかな日差し。
そして、耳から通り抜ける教師の声。

そう。―――それはまるで子守歌。

これはもう眠ってしまえという神からのお告げかなにかだろうか。いや、きっとそうだ。
こんな事ならちゃんとしたベットで眠れば良かったと後悔しながら、開いた教科書を気持ち前にずらして机に突っ伏した。

ちゃんとしたベットとは、勿論保健室のベットである。
近くに座る誰かの教科書をめくる紙の音が、この午後の授業の退屈さを表している。その、変に規則正しい音が止み、小さく聞こえた欠伸に、顔を横に向けた。
新学期が始まった日に行われた席替えで、あかりちゃんが隣に座っている。
口許を手で覆っているけど、無理矢理欠伸を我慢しているからか、かなり変顔になっていた。

―――ヒロインの変顔も可愛いわね……。

ぼんやりとそんな事を考えながら顔を元に戻して重力のままに瞼を落とす。
そして、肩を揺さぶられて意識を取り戻した。

「鈴香ちゃんてば。授業終わっちゃったよ?」
「あー…….、そうなの?」
「ホームルームも終わっちゃったよ?」
「そうみたいね。」

静かだった教室や廊下は生徒達のざわめきに溢れていて、いつの間にか教師の姿も見えない。
胸元に鞄を抱えたあかりちゃんを見て、ひとつ大きく伸びをした。
軽く一時間は同じ姿勢で居眠りしていたせいか、身体中のあちこちが軋む。
やっぱり、こんな場所で眠るものではない。

「一緒に帰ろ?」
「今日はバイトだっけ?」
「うん。だから、途中までなんだけど。」

広げたままの教科書達を閉じると机の中に放り込む。
勿論、持って帰る事などしない。
重いし、家で勉強なんてするわけないし。

「ごめんね?今日は用があって。本当に残念なんだけど。」

私の後方から聞こえるのは、芝居じみた佐伯の声。
いつぞやのイベさながらの茶番劇が繰り広げられているのが振り返らなくても分かる。
いや、むしろ振り返りたくはない。つーか、こんなとこでしないで欲しい。校門先でやられてもこっちの逃げ場がないから、それも困るけど。

「お待たせ。それじゃあ行きましょうか。あっちから。」

あっちとは、佐伯がいない教卓の方。歩く距離が増えるけど仕方ない。茶番に付き合わされるなんてごめんこうむる。

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