22 ダブルトリプルクアドラプル

ガラも悪く話しかけるなと絡んで来たのはいったい誰で、一番最初のイベントとはなんだったのか。
いや、私に絡んだんじゃなくて、あかりちゃんに絡んだんだけれども。

「学校の子達に会うとマズイんじゃないの?特にほら、あんた追っかけ回してる……親衛隊だっけ?」
「ああ……。まあ、これだけ人が居たら大丈夫なんじゃないかな。」

今、思い出したとばかりに辺りを見渡す佐伯。
学校の連中とまったくの他人とを見分ける能力が佐伯にあると思えないが、それ以上に私の方がさっぱりだ。まず、クラスメートの顔すら覚えてない。
それにしても、学校ではあれ程意味のない誤魔化しをしている癖に、一歩外に出た途端すっかり忘れてしまうのはどうしてなんだろう。

「それに……。見られたら見られたで……、噂になるのもいいかなーとか……。」
「冗談。私は嫌よ?」
「なんで……?」
「当たり前でしょう?あんたの事で誰かに追いかけられるなんて勘弁してよ。」

投げ捨てるような私の言葉に、肩を落としてうな垂れる佐伯。
だから、そういう捨てられて雨に濡れている子犬のような行動を180近くある男がやっても可愛くないんだってば。
それに、これではどう考えても私の方が性格悪いみたいじゃない。まあ、悪いんだけども。

「あのね。意味があるからあんな事してるんでしょう?」
「そう……なんだけど……。」
「だったら。っていうか、流れに逆らわないの。後ろが迷惑でしょ?」

しょんぼりと肩を落とした佐伯が文字通りトボトボと歩く。
あかりちゃんみたいな可愛い子がやれば可愛いけど、こいつではやっぱり可愛くない。

今にも立ち止まりそうな佐伯の腕を引っ張りながら、空いてしまった前を歩く人との距離を詰める。
この雰囲気を楽しむように会話する周りと私達では空気の色さえ対象的だろう。
ここは花火会場とは離れているのか、外灯の間隔が広くなり、石畳がアスファルトに変わる頃になると、人の数も少しずつ減って行く。いつの間にか、臨海公園を抜けていたらしい。

「ここまで来ると空気が新鮮だわね。」

何度か温度が下がった気がする空気を吸い込みながら歩いて来た道を振り返ると、不定期に打ち上げられる花火の光で人らしきシルエットが浮かび上がっていた。むわりとした空気だったのも当たり前だ。

「ねぇ。なにか飲みながら帰らない?」

人混みを抜けて気付く喉の渇き。そういえば、あのかき氷しか水分らしい水分を取っていない。
さっきから突然大人しくなった佐伯に顔を向けると、未だどんよりとした空気を身に纏っていた。

prev 22/23 next
しおりを挟む/しおり一覧

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -