21 ダブルトリプルクアドラプル

「別にあいつの事なんかじゃないし。」

図星だったのか、ふいと顔を背ける佐伯。
亀のように遅い歩みながら進展はしているのだろうか。

「そう?別に隠さなくていいのよ?多少は分かってるし。」
「なんで?」

パッと大きく開いた花火に目を奪われながら何気無く答えると、私の言葉に被さるように食いつく佐伯。
マズイ。うっかりエンディングの映像を頭に浮かべてしまった。

「あー…?」
「なんで。」
「あんた前に言ってたじゃない。ほら、あんたんち行った時。」
「言った記憶ない。」

すぐさま返ってくる返事。その声色は、納得なんかしていない。
打ち上がる花火を見ているふりをしながら、今までの佐伯との会話を思い起こす。が、弾けた佐伯しか思い浮かばない。

「言ってたじゃない。初恋だったーとかなんとか。それだけ聞いてたら想像つくわよ。」
「それは鈴香が言っただけだし。それに、普通、それだけでは……。」
「バカね。それだけでも分かるのが女なのよ。」
「そうなのか?」

軽く目を見開く佐伯。
こいつが他人とのコミニュケーション不足の単純なやつで助かった。これが志波ならそうはいかない。
あれは養殖のコミュ害であって、佐伯のような天然ではない。絶対に素知らぬ顔をしながら痛い所を突いてくるはずだ。
そして、これ以上考えなしに会話を続けるのは危険。
連打の花火が打ち上がった後に空く間を利用してここから立ち去るのが吉。背中で少しだけ流れ始めた人々の動きに気付いたように視線を向ける。

「じゃあ、そろそろ帰らない?」
「えっ?まだ……。」
「最後まで居たら帰れなくなるでしょ?またはぐれたい?」
「いや、はぐれたのは俺じゃなくて鈴香なんだけ……。あ、ちょっと待って。」

確かに。はぐれたのは佐伯じゃなくて私なんだけれど。
歩きかけた私の手首を佐伯が掴む。
人混みのせいか、その掌は人肌以上に熱い感じがした。

「こうしたらはぐれないだろ?」

私に確認させるように胸元辺りまで上げ、手首から掌に滑らせて握る。
やけに得意気な、そしてそれに負けない子供のような笑顔だ。
「……前から聞きたかったんだけど、見られたら駄目なんじゃないの?」
「なにが?」
「なにが、って……。」

カラコロと下駄の音を鳴らしながら、キョトンと私を見つめる佐伯。
学校外ではこうやって手を繋ぐ描写は多いだけに、ずっと疑問だった。

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