20 ダブルトリプルクアドラプル

「ちょ……っ!鈴香!?」
「なによ。」
「なにって、あいつらは……。」
「は?一人騒がしいあんたが何言ってるのよ。あんたがうるさいから別行動にしたんでしょうが。」

私達が居ないことにあかりちゃんが気付いたとしても、はるひが上手く誤魔化してくれるだろう。だけれど、念の為に後方を気にしながら少しずつ波の流れから外れて人の少ない場所を目指す。

向かう先は、途中から石畳の遊歩道のようになっていて、さっきよりは幾分浮かれすぎていない人々が思い思いの場所で花火を楽しんでいた。

「それだったら、あれに上ればいいのに。」

佐伯が指差す先にあるのは空中庭園。円柱の塔の上部に、輪っかがはめてあるような、なんとも不安定な建物だ。
行った事はないし、構造がどうなっているのか分からないが、一般的に出入口は一箇所しかないはずで、あんな所で見つかったら今度こそ逃げる術はない。
佐伯が騒がしいから絶対に皆が来ないだろう場所にしたのに、それではまったくの無意味だ。

「こ・こ・で・い・い・の!」

少しも自分の行動が分かっていない佐伯。
掴んでいた腕を離し強調するように地面を指差した。
苛立つ姿を見ても、キョトンと私を見つめる佐伯が苛立ちに拍車をかける。

「はあ。もういいから大人しく花火見てなさいよ。これが見たかったんでしょう?」
「いや、そうじゃなくて。」
「は?見たくもないのに私を誘ったっていうの?」
「違っ!そうじゃなくて!」
「どっちなのよ。まあ、いいけど。」

幾つもの光が歓声と重なる。魅せるようなそれまでの高い位置のものとは違い、低い場所で上げられる花火は、そろそろ佳境に入ったようだ。
辺りを染める程の光に思わず言葉も忘れて空を見上げる。
程よく吹き抜ける海風が余韻のように残る煙をさらい、次々に打ち上げられる花火が見事ともいえる色彩を醸し出していた。

「花火見てるとさ、子供の頃を思い出すんだよな。」
「……は?」

真っ白なキャンパスの上に次々と絵の具を散らせたようだと、ぼんやりと見上げているとポツリと呟く佐伯。
何故ここで、その台詞なのか。微妙に変わってる気がするけど。

「えっ?」
「あー。別に。それより、それは私よりあかりちゃんに言った方がいいんじゃないの?」
「なんであいつが……。」
「なんでって…あかりちゃんの事でしょ?」

そう。一回目も二回目もすっ飛ばして何故それなのか。
いや、おにぎりだかなんだか言われても困るけど。
それはこっちの台詞だっけ?まあ、どっちでもいいんだけど。

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