19 ダブルトリプルクアドラプル

「意外やったわ。」
「なにが?」
「あんたやったらさっさと帰るかと思ってな?」
「……逃げきれなかったのよ…志波から。」

背中から聞こえるはるひの声。顔だけを振り向かせると、目を見開いたまま表情が固まっている針谷が、無意識という感じで歩いていた。
さっきのだけではなく、私が居ない間も佐伯が色々やらかしたに違いない。

「それは残念やったなぁ。」
「ほんと、あなた達にも先に見つかるなんてね。ツイてなさすぎだわ。」
「まあ、あんまり暴走してないし、ええん違う?」
「……なあ。ちょっと聞いていいか?…アレ、どうなって…。」

まだ自分の見ているものが信じられない表情で針谷が先を歩く佐伯を指差した。
佐伯自身は針谷が居る事をすっかり忘れてしまっているのか、何やら志波に噛み付いている。

「ああ……まあ、あんまり気にしなくていいわよ。」
「そやな。」
「気にしないでいられるレベルじゃねぇぞ!?まったくの別人だぞ!?アレ!!」
「あー……。じゃあ、別人って事でいいわ。佐伯の皮を被った別人。宇宙人的な感じで。」

呆然と佐伯をみつめていた針谷がハッと意識を取り戻す。
指した指を震わせて力説されても、それはただの八つ当たりというものだろう。
まあ、プリンスとやらの佐伯しか知らなければ、アレは猫かぶりなんて可愛いものじゃなく、完全な別人だけれど。

「適当だな。今、説明めんどくせぇとか思ったんだろ。」
「あら。察しがいいのね、アレとは別次元だわ?」
「オレ様をあんなのと一緒にするんじゃねぇ!」

呆れたり怒ったりと表情の変化が忙しい針谷。これはこれで鬱陶しい。花火の騒音に負けない煩さという意味で。
ど、その時、何かに気付いたように佐伯がくるりと振り向いた。

「あ。バレたで?鈴香。」
「あー……。」
「鈴香は俺のだ!」
「観念しいや?ってゆうか、一緒に来たんは鈴香なんやで責任もって監視せなな!」

無責任な程明るい声のはるひに肩を叩かれる。
いつまでもあのテンションの佐伯がいたら、流石に鬱陶しいだろう。それ以前に、私の精神力がもたない。

「……はるひ。アレ連れてバッくれるから、あかりちゃんをお願いね?」
「まかしとき。」
「……大変だな……オマエ。」
「お気遣いありがとう。じゃあね。」

ドンと胸を叩くはるひと呆れ返って言葉も出ない針谷を残し、大股で近付いて来た佐伯の腕を取ると、強く引っ張りながら少しでも花火に近付こうとする人の波の中に紛れ込んだ。

prev 19/23 next
しおりを挟む/しおり一覧

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -