18 ダブルトリプルクアドラプル

さっきまでとは違う感覚と力加減。そして熱。
疑問を感じたまま、握りしめた手の持ち主を確かめようと顔を上げかけた途端、ぐいと引かれて誰かに抱きしめられた。

「鈴香は俺のだっ!」

胸元というより喉元に押しつけられた頭から響く声。

――またそれなのか。

バカのひとつ覚え。もとい、バカのふたつ覚え。
ワンパターンな台詞に呆れ返りながら、押さえつけられて息も出来ない苦しさから逃れようと、両手を自分と佐伯の間に差し込む。

「あんたねぇ。いい加減にしなさいよ?」
「だ…だってさ!こいつが手なんか繋いでるから!」
「だってじゃないの。人が多いんだから仕方ないでしょう。」

身体を押しのけ、人の熱気で蒸し暑いけれど幾分新鮮な空気を吸い込むと佐伯を見上げた。
思わず睨みつけたせいか、さっきとはうってかわって慌て出す。

――本当に高校生なのか。

実は、見かけだけがそうであって、中身は違うんじゃないだろうか。
いや、そもそも私が思い込んでいた性格が間違いなのか。
どっちにしても、鬱陶しい事には違いがないんだけれど。

「鈴香ちゃぁん!いてよかったぁ!」

ドスッと、帯を挟んであかりちゃんが背中に張り付く。
衝撃によろめきながらも佐伯の腕から逃れ、帯ごしに巻き付けられたあかりちゃんの腕をほどいた。

「ごめん。気付いたらはぐれちゃってて。」
「心配したんだから!ぼんやりしてちゃダメだよ?」

……この世界で散々言われてるあなたがそれを言いますか。

プレイ中、主人公の三択やら行動で苛立ちながら舌打ちしていた事を思い出し、その主人公である本人の口から思わぬ台詞を言われた事に凍り付いた。
その立ち位置だけには絶対になりたくない。

「あー。でも、志波が居てくれて助かったわ。背が高いと視界が広くて便利よね。」
「あ!それは言えてる!私もね、図書室で本を取ってもらった事があるの!いいよねぇ、背が高いと。」
「ふぅん。そんな事があったの?」

……あのイベントか。

どうやら私が知らないうちに、あかりちゃんの周辺では色々起こっているらしい。
それにしても、あかりちゃんがアホの子でよかった。
今泣いた子がなんちゃら。すっかり話が変わったあかりちゃんにホッとしながら、再び合流した団体がゾロゾロと歩き出した。

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