17 ダブルトリプルクアドラプル

再び顔を上げると、志波の視線は私が向かっていた先。
つまり、待ち合わせた場所の方を向いている。
そして、見上げていた私に答えを求めるように視線を下ろした。

「あーー。」
「逃げる気満々だな。」
「それは否定しないけど。実際、これだけ人が居たら見つけるのなんて不可能でしょ?」
「俺は見つけたぞ?」
「あんたの視界なら見やすいでしょうよ。」

一難去ってまた一難。
これから先の方が、さっきの男達より面倒な気がする。
口の端を上げるやけに得意気な志波がこのまますんなり帰してくれるはずがないだろうと、また身体の向きを変えて歩き出し、暫く人の流れに乗った。

「それで?あの子達が居る場所は?」
「……さあ。」
「え?それじゃあ、ここから見えるとかは?」
「…ないな。」

志波の視線は花火が上がっている空にあって、特に辺りを気にかけている訳でもない。
私と佐伯に会ってからそんな話は出てなかったはずだし、てっきり四人で話し合っているだろうと思って逃げるのを諦めたのに。

「…じゃあ、帰っても大丈夫ね。」
「往生際が悪いな。」

目的は花火を見に来た訳だから途中で立ち止まってたりはしないだろうけれど、志波の視線の高さならあかりちゃん達を見つける可能性は高い。
今の内ならと、再び踵を返しかけた途端、左手がブレーキとなった。

「……なにかしら?」
「またはぐれるからな。」
「はぐれようとしてるんだけど。」

しっかりと志波の手に握られた左手。
一瞬の隙も逃さない程の運動神経の良さ。
そのまま離される事なく人混みの中を歩く。
頭上には、連続で開き続ける花火の花。
身体に響く衝撃音と感嘆の声が交互に起こる。

「まさかあんたとこうやって二人きりで見る事になるとは思わなかったわ。」
「…そうだな。」

人の声につられて空を見上げながら、そこかしこで立ち止まっている人々にぶつからないように奥へと進む。
何故か突然込み上げた笑いを堪えながら、繋がれたままの左手を軽く上げながら志波に顔を向けた。

「とうっ!」

黒い影が素早く私と志波の間に割り込み、同じタイミングで左手に鈍い痛みが響く。
痛いと声を上げる前に、一度離れた手が再び握られた。

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