16 ダブルトリプルクアドラプル

「しない。貴方達に興味ないし。」
「かぁ〜っ!どSなキャラいいっ!俺達を調教して欲しいな〜。もっと静かなトコでさぁ。」
「だから、興味ないってーー。」

前屈みになり覗き込む男達の一人に手首を掴まれる。
振り払おうとその手を上げた所で、横から黒い影が素早く伸びた。

「オイ。」

低い、低い、落ち着いた声。
黒い影は人の腕で、振り上げた私ではなく、相手の男を掴んでいた。

「なっ…なんだテメェ!」
「…なにか用か?」
「テメェなんかに用はねぇんだよ!」
「違う。こいつに用があるのかって聞いてるんだ。」

突然出て来た男に腕を掴まれた事に驚いたのか、志波の手を勢いよく振り払うナンパ男。
志波を見上げて凄むが、当の本人は顔色を一つも変えず落ち着き払っている。三人から見れば、恐ろしく無表情な男が見下ろしているんだろう。

「お……覚えてろ!」

やはりというか、なんというか。
志波にとっては返答待ちだったのだろうが、暫しの沈黙にも耐えきれなくなったのか、逃げながらの捨て台詞。

「…なにを覚えておけばいいんだ?」
「さあ?自分達に会った事じゃない?」
「おまえも大変だな。」
「わかってもらえるのはあんまり嬉しくない気がするけど…助かったわ。ありがとう。」

三人が人混みの中に消えると、何事もなかったかのような表情で私を見下ろす志波。
あまり嬉しくない同情だけれど、志波が現れてくれたおかげで面倒な事にならずに済んだ事も確か。
礼を言いながら、よく佐伯が黙っていたものだと辺りを見渡した。

「……みんなは?」
「さあな。」
「さあなって…あんた一人なの?」

さも当たり前のような涼しい声に、驚いて志波を見上げる。
佐伯が騒いでいないという事は、志波が適役だから現れたのだろうと思ったからだ。

「ああ。」
「みんなには…。」
「言ってないな。そういえば。」
「あんたねぇ……。」

そんな事は思いつかなかったとでもいうように、軽く目を見開く志波。
佐伯が騒いでいたのが本当なら、今頃あかりちゃん達は騒ぐ佐伯と居なくなった私。そして、突然消えた志波。
修羅場と化しているその光景が容易く浮かび、頭を抱えた。

「そんな事より、なんでそっちに向かってるんだ?」
「えっ!?」

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