15 ダブルトリプルクアドラプル

それまでの穏やかな人の流れが急に早くなる。
始まった花火を見て、どの人達も落ち着いて見られる場所を探し始めたようだ。

「鈴香ちゃーん!志波くーん!こっちこっち!」

流れる人の波の合間から、あかりちゃんの顔と上げた手が見える。
私の前には志波。隣には佐伯も居るのだが、佐伯だけ完全無視なのは相変わらず徹底しているともいえた。

「見失ったフリして逃げたい…。」
「あんたねぇ……わっ。」

がっかりと肩を落として溜め息をつく佐伯に顔を向けると、後ろから追い越した誰かの肩がぶつかり身体が前のめりに傾く。
転ばないように下駄の先に力を入れて踏み止まり、ふと気付いた。さっきまで隣にいたはずの佐伯がいない。

「……これは…迷子って事かしら。」

夏の海だの祭りだの、小さな子供が迷子になるとかよくある話で、どうしてもっと気を付けないのかしらとか思っていたけど、人は案外簡単にそうなってしまうものなのだと妙に感心しながら辺りを見渡す。
多分、今この場を動き回るのは正解ではない。

「……ま。いいか。」

同じ空間。そして同じ花火。
一緒に来たのは事実なんだし、見えてる花火も同じなんだから、一緒に居る事となんら変わりはない、はず。
ちょろっと花火を見ながらブラブラ来た道を戻ればそれなりの時間が経って、探したという言い訳にもなるだろうし、実際にちゃんと見たんだから嘘にはならないだろう。
回れ右して、人の流れに逆行して歩き出す。

「ねぇねぇ、か〜のじょ。彼氏と喧嘩でもしたのぉ?」

殆どが花火が見られる会場に向かう人達ばかりで、私のように逆らって歩くのは、屋台目当てのカップルや家族連ればかりだ。私のように一人で歩いている者など当然居ない。
かなり目立つのは、当たり前といえば当たり前で、そして、こういうのを引き寄せてしまうのも想定出来る範囲内なのは間違いない。

「別に?」
「またまたぁ。こ〜んなとこに一人で来る訳ないよねぇ?」
「さあ…どうかしらね。ねぇ、貴方達、とてつもなく邪魔なんだけど。」
「かぁ〜っ!クールビューティだね!痺れちゃうね!そんな君をもっと知りたいからさ、俺達と花火デートしない?」

私の進行方向を塞ぐ浴衣姿の男三人。
現地で相手を調達しようとでも思ったのだろうが、こんな場所にナンパ目的で来る女なんていないだろうに。
しかも、三人見事にチャラ男。おまけに残念な顔立ち。
まあ、私が普段から整った顔しか見てないせいもあるけど。

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