しかも、一見無表情なせいで、変な威圧感と悪びれない雰囲を醸し出している。
「鈴香は俺のだ。」
「あのね…私は物じゃないんだけど?」
「…だ、そうだ。」
「ちょっ!」
まるで小学生の子供のような佐伯。
志波のおかげで葉月の事をすっかり忘れてしまったのは有難いけれど、いい加減暑苦しいから肩を一つ叩いて人の流れの波に乗る。
間髪を入れずに志波が反対の肩を叩いて私の後に続いたが、それは私とは違い、まさに憐れむような置き方だった。
「そろそろ少しは優しくしてやったらどうだ?」
「あんた。爪の先ほどもそんな事思ってないでしょ。」
「さあ。どうかな。」
隣に並ぶ志波がしれっと呟く。
溜め息をつきながら顔を向けても、真っ白なわた飴で志波の表情は見えない。
でも、おおかたニヤニヤと笑っているのだろう。と、そのわた飴が横に動き、私の想像通りの嫌な笑みが現れた。
「やっぱり。思ってないんじゃ――。」
「想像に任せる。」
空いた左手が動き、わた飴が左右に揺れる。
その手が私の口許に伸びて志波の指先が唇に触れ、反射的に閉じた口内の唾液で柔らかな物が一瞬で溶けた。
なに?と疑問に思う間もなく広がる独特の甘さ。
「わた飴って…当たり前だけど甘いのね。」
「旨いだろ。糖分は頭にいい。」
「それ、私にもっと突っ込んで欲しいって事?」
「さあ、な。」
再び人波の流れに戻ると、いつの間にか葉月の姿も消えていた。
お互いが声をかけなかったおかげで、はるひはただの偶然だと理解したようだった。
「なっ…!なにしてるんだよ!鈴香から離れろ!」
「なに無理難題言ってるの。この人混みで出来るわけないでしょ。」
「無理じゃ・な・い!こいつが先に行けばいいんだ!」
ぐいと肩を掴まれて私と志波の間に佐伯が割り込む。
針谷がいるから少しは大人しくなるかと期待したのに、またも暑苦しい。
と、言うか、針谷が何の抑止力にもなっていない。
「まったく…ちょっと目を離すとこれだから…。」
「ねぇ…そういうの、疲れない?」
「鈴香が危ないからこうなるんだ!」
「あー…。花火…まだかしら…。」
ああ…体育祭再びな予感。
壊れ切った佐伯は、今以上に鬱陶しい。
人波の先、花火が上がる正面に顔を向けると、シュッと何かを擦ったような音。
空が白とも金色とも感じる光に続いて、赤と青に染まる。
それと同時に身体の芯に響く破裂音。
「あ。」
「あ。」
見上げると、余韻のような花火の光が地上に向かって流れていた。
14 ダブルトリプルクアドラプル