13 ダブルトリプルクアドラプル

佐伯の持つカップにザクザクとストローを突き刺すと、零れないようにか、慌てて私の方に傾ける。
代わりにと自分のカップを傾けながら青く染まったかき氷を口に含むと、私を避けていた人の流れが突然止まった。

「……あ。」

ふわりと漂う香りと、聞こえた声が自分に向けられていた気がして顔を上げる。そして、思わず手を止めた。

僅かな風でも、ふわふわと揺れる金の髪。
涼しげな浴衣に負けない涼しげな表情。

少し驚いたように緑の瞳が見開いてるのは気のせいか。
そして隣には、あかりちゃんと同じくらいの身長の黄色の浴衣姿の女の子。肩辺りまでの桃色の髪でふんわりとした女の子らしい雰囲気を持つこの女の子は、きっと主人公ちゃんだろう。
夏休み前にハッパをかけたけど、ちゃんと行動に移したとは。やれば出来るんじゃないと、肩でも叩きたい気分だけど、そんなヤボな事はしない。
知らんぷり知らんぷりと、視線を逸らした。

「小波…。何か欲しいもの、ないか?」

低い、でも落ち着く声は私に向けられたものではなく、またふわりと香りが動いて気配が遠ざかる。
コミニケーションも出来てる出来てる。よしよし。

「なあなあ。今の葉月珪やん!鈴香、知り合いなん!?」
「は?知ってる訳ないじゃない。」

カタカタと下駄をならして駆け寄るはるひ。さっきまでこっちなど見てなかったはずなのに。そして、目ざとい。

「やけど、あっちは鈴香見とったやん?」
「そう?単純に、私が邪魔だったんじゃないの?」
「いや。あいつ…鈴香をじっと見てた。」
「な?佐伯も言うとるやん。やっぱ鈴香を見とったって。」

初対面なはずなのに、あからさまな敵意の視線を向ける佐伯。そして、それをただの興味本位で煽るはるひ。
きっと、いや、確実に休み前の佐伯を忘れている。
そして、火に油を注いでいるとは爪の先ほど感じてはいない。

「本当に面白い奴だな…。」
「だから。こっちは面白くないんだって。」

ここに来てから食にしか興味がなかった志波が私の隣に立ち、相変わらず分かりにくい表情でニヤニヤと笑う。
それでも手にした物を食べ続ける辺りは流石だ。

「それに、あんたの今の絵柄、物凄くシュールよ?」
「そうか?」
「こら志波。鈴香に近付き過ぎ。離れろ。」
「どうしてだ?」

さっきまでこっちに背を向けて葉月を見ていたはずの佐伯が、私に背を向けて志波との間に割って入る。
佐伯の背が低い訳ではないけれど、志波が高すぎるせいで佐伯は志波を見上げ、志波は佐伯を見下ろしていた。

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