12 ダブルトリプルクアドラプル

「いや…。たいした物じゃないし。…うん。」

瞬きした佐伯が何故か口ごもって俯いた。
前を歩くのは、次々と屋台に飛び込み何かを手にする志波。
その隣で呆れ顔の針谷と、二人の後ろで楽しそうに顔を付き合わせて一つの食べ物を食べている、あかりちゃんとはるひ。
その光景はまったく色気のないものになっているんだけど、当の本人達は気付いてはいない。

「ねぇ。あんたって、それ、好きなの?」
「いや、色がいいなって。…でもさ、青いハワイってどういう意味なんだろ。」
「えっ?…えーっと、それってブルーキュラソーでしょ?カクテルで、ハワイの海を表現したとか…映画が由来とか言われてるんじゃなかったかしら。」

かき氷を突きながらブツブツと呟く佐伯。
思わぬ不意打ちに、朧げな記憶を引っ張り出す。
確か、どっかのバーでそんなウンチクを聞いた気がする。
ただ、つまんない男だったし、話半分以下で聞いてたから、自分の記憶にはまったく自信はなかった。

「へぇ…詳しいんだな。そういえば酒にも強かったし…もしかして、鈴香ってバーテン目指してるとか?」
「どうしてバーテン志望になるのよ。」
「俺もコーヒー好きだからバリスタになりたいし、そうなのかなって。」
「佐伯って、ホントバカよね。」

見開いた目を輝かせて私を見つめる佐伯。
まるで、同志でも見つけたような期待具合だ。
そして、つい先日の出来事も彼の中では意味のある行動だったと記憶の改変がされている。呆れるほどバカだ。きっと、頭を振ったらカラカラと音がするに違いない。

「なんでだよ。」
「あら。半分は褒め言葉よ?でも、これって似せてあるのは色だけなのね。」
「そうなのか?」

呆れはするが、変に追求されるのは困る。そして、かなり嫌だけれど、この佐伯に慣れつつあるのも事実。
何気なく、佐伯のかき氷に先がスプーンになっているストローを伸ばし、一口頬張った。自分のもだけど、これも想像以上に別の味。

「キュラソーはアルコールだし、よく考えたら使えないわよね。こっちだって、風味だけよ?」
「あー…。そういえばそうかも。」

不思議そうに自分のかき氷を見つめる佐伯。
私のかき氷を傾けると、つられたようにストローを挿して一口頬張り納得したように頷いた。

「でも、こう暑いとホント美味しいわよね。佐伯のってラムネっぽいし。」
「ちょっ…俺の食い過ぎ。」
「いいじゃない。あんたもこっち食べたら。」

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