志波の右手にあるタコ焼きと同じ器をもったあかりちゃんが私の左腕に自分の腕をくっつける。
夕飯代わりなんだろうけれど、人の多さでちっとも下がらない夏の気温に私の食欲は遠ざかる一方。
辺りを見渡し、これならと思えるものを見つけてその屋台を指さした。
「あ。あえていえばアレかしら…。」
「あー、かき氷だ!私も食べたーい!」
「大丈夫なの?お腹壊さない?」
指した私の指の先を見つめたあかりちゃんが空いた腕を絡ませて引っ張る。
店の前まで連れられてくると、鮮やかな色をしたシロップが入った容器が並んでいた。
「へいきへいき。鈴香ちゃんは何味にする?」
「そうねぇ…出来ればさっぱりしてるのがいいんだけど…。」
「すいません。これとそっち、あと、これをひとつずつ下さい。」
「はいよ。ちょっと待っててねー。」
ふいと隣に並んだ影が腕を伸ばす。
ひとつは私が目星をつけたもので、もうひとつはその独特な色で気になったものだった。
残りのひとつは定番中の定番とも呼べる味。
「はいおまたせー。お兄ちゃん全部持てるかい?」
「ちょっと待って下さい。ほら、海野はこれ持って。鈴香はこっち。」
「えっ?なっ、なに?佐伯くん。」
ぶっきらぼうに伸ばされたかき氷が入ったカップを思わず受け取るあかりちゃん。
それは濃いピンク色で定番ともいえるイチゴ味。
私に渡されたのは、この中で一番希望に合うレモン味だった。
そして、佐伯が手にしているのは鮮やかなブルーのかき氷。
「おごってやるよ。俺も喉乾いたし。」
「わー。佐伯くんふとっぱらー!ありがとー!」
「太っ腹は余計だ。つーか、鈴香だけにおごる訳にいかないだけだし。おまえはおまけだ、おまけ。」
「ひどっ。鈴香ちゃーん、佐伯くんがいじめるんだよー?」
「はぁ。佐伯、あんたガキすぎ。」
ちょっとしたきっかけで始まる痴話喧嘩。
これは仲がいいのだ。つまりは、相性が良すぎるからだと思いこみ、手渡されたかき氷を一口頬張った。
頭痛がするのは、決して二人のせいではなくかき氷を食べたからだと思いたい。
「旨いか?」
「ええ。さっぱりして美味しいわね。って、もういいの?夫婦喧嘩。」
「あ?夫婦喧嘩ってなんだよ、それ。」
「そのまんまの言葉だから気にしなくていいわよ。それより、言いそびれたけど。これ、ありがとね。」
再び波の流れに乗りながらダラダラと歩く。
いつの間にかあかりちゃんとのやり取りを終えたらしい佐伯が隣に並んだ。
ふとお礼すら言ってなかった事を思いだし、手にしたかき氷の容器を掲げる。
11 ダブルトリプルクアドラプル