10 ダブルトリプルクアドラプル

海水魚と淡水魚の違いくらい分からなかったのかなんて、追い込むつもりは毛頭ないけれど、金魚すくいの金魚は観賞用ではないんだろうし、丁寧な輸送なんてされてないだろうから、早々長生き出来ないだろうとか、多少の慰めでもしようかとその横顔を見て思わず噴き出した。

屋台の明かりではない、身体の内側から染まる赤。
血液で赤くなった耳。

「佐伯。あんた可愛いとこあるのね。」
「なんだよ、それ。つーか、可愛くなんてないし。」
「いや。充分可愛いし、和んだわよ?それより、あの子達見失うんじゃない?ほら。」

突っ込むのは楽しそうだけど、立ち止まったせいで歩く流れは乱れ、出店前にいるあかりちゃん達も見失いかけている。
はぐれたりなんかしたら、おかしな想像でもされてまた大変な目に合いそうだと、佐伯の肩を叩いてあかりちゃん達を指差した。

「はぁ。なんでこうなったんだろ。俺は鈴香と二人で花火が見たいのにさ。」
「まぁ、いいんじゃない?高校生らしくて青春って感じでしょ?」
「よくない。それに、そういう子供っぽい事は興味ない。」
「はいはい。大人は通行の邪魔になる所で立ち止まったりしないから。じゃあねー。」
「ちょ…!」

周りの迷惑を釘指すのはついでというか、宥めすかさないと機嫌を直さない子供相手は正直面倒で、まだ足を動かそうとしない佐伯を置き去りにする。
まさか、こんな場所で置き去られるとは思ってなかったらしい佐伯の下駄の音が、カラコロと慌てたように鳴り響いた。

「あら。美味しそうなの食べ…すぎじゃない?大丈夫なの?」
「…まだ……足りない。」
「そ、そう。いかにも食べそうだしね…あんたって。」
「食うか?」
「や…、遠慮しとくわ。」

人の波で気付かなかったけれど、四人はそれぞれ何かを手に持っていた。
その中でも目を引くのは、左手の掌にはタコ焼きと焼きそばの容器。箸を持った右手と、どうやっているのか、りんご飴だのイカ焼きだのフランクフルトだのチョコバナナだのといった、棒に刺さった食べ物を指に挟んだ志波。

「それにしても…あんた器用ね…。」
「そうか?」
「ええ。その指からよく落ちないわね。あんたの指の力ってどうなってるの?」

焼きそばを挟む箸の動きに合わせて上下するりんご飴達。
普通の人間なら落っことすだろうに、まるで扇子で自分以外の他人を仰いでいるようだ。

「ねぇねぇ鈴香ちゃん。鈴香ちゃんも何か食べようよ!」
「そうねぇ…。出来たら軽いものがいいんだけど…。」

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