09 ダブルトリプルクアドラプル

ポツポツと等間隔に並んだ外灯に渡された白く輝いた電球が人並みの行く道を印す。
その灯りが提灯と変わり、両脇が一際明るく照らされた空間へと続いた。どうやらその明かりは屋台のもののようだ。

「うわぁ…凄いね!」
「そうか?普通だろ?」

あかりちゃんからは感嘆の声が漏れ、隣の佐伯からは呆れた声が続く。

「で?これからどうするの?」

人の波が右と左に別れて行き来する。まるで誰かが定めたように。
ただ、こちらに向かって流れてくる人達はこれから帰宅する訳ではなく、花火が始まるまでの時間潰しなのだろう。
再び反対側の流れに溶け込み、人波の円が出来上がっていた。

「そんなんもちろんアレや!」
「西本。あんなモン今から持ってたらジャマじゃねぇか。」
「俺は…あっち。」
「たこ焼き!私も志波くんにさんせーい!」

人の多さで歩みが遅くなる中、屋台に目を奪われる背後を振り返る。
はるひと志波は違う屋台を指差し、タイミングのいい針谷のツッコミとあかりちゃんの高いテンションを受けていた。

「あんたはどっち?」
「俺は…どっちもいかない。」

はるひの声に更に緩まる佐伯の足。
それには気付かない二人が私と佐伯の脇をすり抜け、あかりちゃんと志波と並ぶ。

「ガキっぽいとか言いたいんじゃないわよね。いいじゃない、あの子達楽しそうだし。」
「ちが…わないけど…。……金魚すくいって苦手なんだ。」
「は?壊滅的に苦手とか?いいじゃない、下手でも。」

曇る佐伯の表情が益々暗くなりついに俯きながら立ち止まった佐伯に合わせて私も立ち止まりながら、ふと思い出した。

「……子供の頃にさ、金魚すくいしたんだ。でも…。」

ああ。なんかこんなイベントあったわ。
たしか…海に放したんだっけ。
赤いヒラヒラ…は、葉月の台詞か。こいつはなんだっけ…黒?いや、赤だった?
……駄目だ。連打だったからまったく記憶がない。
こんがらがった記憶を呼び起こす為、コメカミに人差し指を当てぐりぐりと押す。

「………で。聞いてたか?」

呼び起こそうにもない記憶はないのは当たり前。何一つ思い付く事もなく、耳元ではっきりと聞こえた佐伯の声で我に返った。

「もちろん!聞いてたわよ?まあ、よくある事よね。良くも悪くも子供ゆえの残酷さってやつ?」
「はっきり言うよな……。」
「あら。慰めて欲しかったの?それなら話す相手が悪いわよ?」
「別に……。そうじゃないけどさ。」

ふいっと顔を逸らす佐伯。どことなく拗ねたような口調だ。

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