08 ダブルトリプルクアドラプル

「……あいつなら気付いてないぞ?」
「よね。そんなに大声で話してなかったもの。あんたが地獄耳なだけ―――って、なに?」
「いや。あいつよりお前の方がよっぽど気にしてるからな。…面白い。」
「私は全然面白くないんだけど。」

ちょっとした仕草で私の考えが分かったのか、視線だけを向けた志波の口の端が上がる。

ムカつく。
この年齢にそぐわない、変に余裕な態度が気に入らない。
そして、年齢そのままのお気楽な前の佐伯がムカつく。

「よく来る気になったな。」
「聞いてたから二人を誘ったんでしょ?」
「そこまで悪趣味じゃない。」
「あんたがここに居る事実だけでも充分悪趣味だけど?」

志波の話を信じれば、ずっと私達の押し問答というやり取りを聞いていた訳ではないようだ。
だけど、断片だけを聞いて結果を予想しここに居るのだから、悪趣味以外のなにものでもないのは事実だ。

「で?この先どうするの?まさかこのままアレを野放しにするつもりじゃないでしょうね。」

アレとは勿論前を歩く佐伯の事。
後方で歩く人物を忘れていないのか、一応自分の立ち位置は分かっているらしい。
チラチラと見える横顔は、とりあえず取り繕っていた。

「当然だ。」
「聞いた私がバカだったわ。」
「そうか。」
「ええ。」

与えられた台詞を棒読みで読む役者のような会話を繰り広げていると、それまであかりちゃんと話していたはずの佐伯が不意に振り返った。それにつられてあかりちゃんも振り返る。

「なにヒソヒソ話してるんだよ。」
「この雰囲気の何処がそんな色気のあるものなのか教えてもらいたいわね。」
「でも、鈴香ちゃんと志波くんって、絵になるよね。」
「ならない。ぜんっぜんならない。ならないからおまえが志波と並んでろ。きっとお似合いだ。」
「やだ。鈴香ちゃんとがいい。」
「どうでもいいわよ……。」

相変わらず続けられる小競り合い。
人混みの中では思うようにいかないのか、大事にはならず、私の隣には佐伯が、志波の隣にはあかりちゃんが収まった。
そして三組の先頭を花火会場に向かって歩いている。ひしめき合うように流れる人の波は一方通行。熱気がこもって息苦しくもある。

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