07 ダブルトリプルクアドラプル

いや、ここは、棚からぼた餅。

気分的に解放になる夏休み。
そして、学生生活には非日常な夜。
しかも、浴衣に花火ときたら、シチュエーションばっちりで、例えこれが現実だったとしても盛り上がらなきゃおかしい。

「まあ…。似合わない事もない、事もない。」
「どっち!?」
「似合う、んじゃないか?ほら、体型が体型だし。」
「なにそれ!」

気持ち歩みを緩めながら、あかりちゃんに繋がれた手をほどく。
佐伯の素直ではない感想に気を取られたあかりちゃんは、気付く事なく佐伯と並んで歩いていた。

色気もなにもない会話だけど、文句は言うまい。

「……面白いな。」
「ああ。喧嘩するほどって感じだから?」
「違う。」
「だったら何が――って。……こっちは死活問題なの、分かってるでしょ?」
「まあな。」

一歩下がった事で必然的に並んだ志波。
相変わらず分かりにくい表情だけれど、何が言いたいか分かる自分がとてつもなく嫌だ。
前を歩く二人が、けっして仲の良い恋人同士には見えないが、ここまでの道程を思い起こせば劇的な進歩。

ここで余計な一言は二人には絶対に言うまい。

「ところで…なんであんたがここに居るのよ。偶然にしては出来すぎてるでしょ。」
「……知りたいか?」
「やっぱりいい。聞いたらダメージ受けそ――。」
「針谷と屋上に向かう途中――。」
「いやいやいや。その先は言わなくていいから。」

ふと浮かんだ疑問。
志波に顔を向ける。
前を向いたままの志波の口の端が僅かに上がり、嫌な予感がして首を振った。

「聞き覚えがある声が珍しい会話してた。……普段は必死に拒否する内容なのにな。」
「……悪趣味。」
「覗いた訳じゃない。聞こえただけだ。」
「やっぱり覗いたんじゃない。…で?どんな顔するだろうってブッキングしたの?なら、やっぱり悪趣味よ。」

普段無口な癖に、こういう時は人の話も聞かず饒舌だ。

確かに、あの時教室に戻る私が佐伯に捕まって今日の話をしていたけれど、人目に付かないように誰も居ない廊下の、しかも階段からは死角になるように壁際にいたはずだし、他の誰かが気付く程大声で話していた訳でもない。

さりげなく後方ではるひと並んで歩く彼の表情を盗み見ると、前を歩く佐伯を気にしている風でもなく、至って普通に見える。

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